ここまでひとり、ここからもひとり






弁財はたまにほんとうによく眠る。起きているあいだ必要最低限のことしかしていないのではないか、むしろ必要なことをかなぐりすてて眠っているのではないかというほどよく眠る。仕事が終わって部屋に帰り、服を脱いだ途端にぷつんと電池が切れたようになって、ベッドに横たわる。そうして、貪るように眠るのだ。睡眠を貪って、おなかがふくれでもするのだろうか。五島はいつもその寝顔を眺める。ただ眺めている。五島は眠らない。不思議なことに、弁財がよく眠る時期に、五島は眠らなくなる。そして弁財は五島の部屋で眠る。もう秋山も日高も慣れてしまった。五島はどうせベッドをつかわないとわかっているから好きにさせている。弁財は好きで五島のベッドに寝ているかというとそうでもなかった。ただ自分のベッドだと思い込んで眠るのが五島のベッドらしいのだ。五島はちょっとこの人は頭がおかしいのかもしれないと思った。そうして、長い長い夜を弁財の静かな呼吸を聞きながら過ごす。ただ何をするわけでもなく、そうする。たまに本を読む。たまに音楽を聴く。たまにまどろむように瞼を落とす。たまにコーヒーを飲む。たまに、同じベッドにはいる。

弁財は基本的に一度眠るとなかなか目覚めなかった。語弊がある。なかなかではなく、絶対に朝までは目を覚まさない。五島が呼びかけてみても、髪を触っても、すこし問題のあることをしても、目をさまさない。だから五島は弁財のひたすら眠っている時間は、弁財を好きにできる。ひととおり、ひどいことはした。相手の了承を得なければしてはいけないようなことを、ひたすら繰り返してみた。五島はもう弁財のくちびるの柔らかさを知っているし、ずっと閉じていた口の生臭さも知っているし、ふとももの付け根にある小さな傷跡のことも知っていた。そういうことをすると、弁財は寝ていてもすこしだけ、眉を寄せる。鼻の頭に皺をつくる。そのしわのかたちをなぞって、五島は落胆した。このひととじぶんはきっとどこまでいっても違うひとなんだと、わかった。

朝弁財が目覚めたとき、少し怪訝な顔になった。五島は何も言わなかった。だから、弁財もなにも言わなかった。ただすこし、立ち上がったときに眉をしかめた。寝ていたときと同じように、鼻の頭に皺を寄せた。

「・・・おまえがいいならそれでいい」

弁財は寝乱れたのか、五島がはがしたのかわからないシャツをととのえながら、溜息のように、そういった。五島は「たのしかったですよ」と応えた。弁財は少し骨のかたちのわかるような首で俯いて、「そうか」と言った。弁財は五島の舌の冷たさを思い出して、首をかしげたけれど。


END


つるぎさんへ
五弁・・・五弁です大丈夫です。
弁財さんはなぜこんなに眠っているのか…雰囲気だけ楽しんでいただければと思います。
リクエストありがとうございました!

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