僕らの糸はもう赤くない






運命の赤い糸っていうものを、きっと僕ははじめて見ました。僕のなんだかたよりない左手の小指からするすると伸びていたその先を辿っていくと、そこには少しだけごつごつとして、一度骨折したことでもあるのか、少しだけ曲がっている小指がありました。そこから僕がおずおずと上を見上げると、そこには日高さんがいたんです。そして日高さんも少し困ったような顔で僕を見つめていました。僕はすごく嬉しかったのですが、日高さんがどうしてそんな顔をしているのか、すこしこわくなりました。僕は何度も確かめるように僕の指にちゃんと巻きついている赤い糸をひっぱって確かめてみました。僕がすこしそれを引っ張ると日高さんの小指が少しだけ持ち上がって、僕はやっと日高さんが困っていた理由がわかったんです。

日高さんの指にはたくさんの赤い糸が巻きついていました。それはもうほんとうに、たくさん。僕の指には一本しかありません。日高さんにはたくさんの運命の人がいる。だからきっと、日高さんは困ってしまっていたんです。その日高さんの糸の先には僕が知ってる人や知らない人がいました。男の人だったり女の人だったり、たくさんいました。僕は少し悲しくなって、俯いてしまいました。僕の小指からのびる糸が、あんまりにも頼りなく、拙く、細いものに思えてしまって。

「タケ」
「・・・僕じゃなくても大丈夫なんですよ」
「・・・タケ」
「僕に日高さんしかいないからって、僕を選んでくれなくたっていいんです」

僕は日高さんが幸せになれるならぜんぜん僕じゃなくたっていいんですと口の中でもごもごとつぶやきました。日高さんが、僕じゃない誰かと楽しそうにしているのを見ただけで胸が雑巾を絞るみたいにぎゅうっと苦しくなって、汚れたものをぽたぽたと落とすのがわかりました。それでも、きっとこう言わなければ日高さんはお情けで僕を選んでしまうと、わかっていたんです。だから、僕はそう言いました。そうすると日高さんはほんとうに悲しそうな顔になりました。けれど、僕はきっと間違ったことは言っていない。嘘を言うことは、かならず間違っているわけじゃ、きっと、ない。

すると、僕の小指から伸びていた赤い糸が、ぷつんぷつんとちぎれていきました。僕はほんとうに悲しくて、ぷつんぷつんと泣きました。ほんとうは日高さんがよかったんです。日高さんに、ほかのだれかを捨ててでもいいから、僕を選んで欲しかったんです。ほかの誰でもない、僕を。けれどそうしたらきっと悲しい思いをする人がいると、僕にはわかっていました。そんなひとたちを踏みつけて僕が日高さんの隣に居座る価値なんてきっとどこにもないんだって、ちゃんとわかっているんです。ちゃんとわかっているのに、だめなんです。つらい。この糸が切れてしまうことがとてもつらい。

「タケ」
「・・・いい、んです、でも、よくない、つらい、いやだ、こんなの、僕は」
「タケ、指」
「ゆび」
「赤くないな、もう」

僕はそこではじめて僕の指をきちんとみつめました。そこには日高さんと同じくらいたくさんの赤い糸があったんです。たくさん、それは僕が知っているひとや知らないひと、男の人や女の人とつながっていました。赤い糸は、そうでした。けれど、さっきからぷつんぷつんと音を立てていた糸だけは、もう真っ黒になっていました。日高さんとの糸です。僕の方から、日高さんの方から、黒くなっていました。しまいには全部黒くなって、赤いなかに、そのひとすじのくらい糸だけが、とても目立っていました。僕は首をかしげます。日高さんも、すこし嬉しそうに、そうしました。

「これって運命の赤い糸じゃ、ないんですか?」
「どうなんだろうなぁ」
「まっくろでなんか、こう、」
「こう、なんかはずかしいな。俺とタケのだけ、真っ黒だな」
「目立ちますね」
「ああ、目立つな」

だから隠しておかないといけないなぁと日高さんは言いました。そして僕の手を握ったんです。ぼくはまたぷつんぷつんと泣きました。細い糸をたぐり寄せるように、泣いたんです。


END


れーたさんへ。
ほのぼのだよ!わたしは言い張るよ!
リクエストありがとうございましたごめんなさい!

title by √A

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