にょたせぷ7






通された伏見の部屋は閑散としていた。とにかくものがない。秋山はよく道明寺と加茂の部屋へ入るのだが、そこは女性らしい小物やら家具がぎゅうぎゅうと押し込まれていたし、秋山と弁財の部屋もシンプルではあるがそれなりに物がつまっていた。伏見の部屋は本当に男性らしさも女性らしさもない、とにかく何もない部屋だった。支給品らしいローテーブルにマットの固いベッド、キッチンには調理器具らしいものどころかケトルさえなかった。座布団もラグもなかったので、秋山がどこに座ればいいのだろうという顔をしていると、伏見が「ベッドにでも腰掛けてればいいんじゃないですか」と。秋山は言われたとおりにベッドに腰掛けてああこれが普段伏見の使っているベッドか、とどぎまぎしながらそこへ腰をおろす。

「秋山さん、案外無防備なんですね。男の部屋にひょいひょいついてきて、ベッドに座るとか」
「え、いや」
「別に俺は都合がいいだけなんでなんとも思わないですけど」

秋山も伏見ももう隊服から私服に着替えていた。秋山はそれなりに女性らしいタイトなスカートにシャツだった。しかしどこか固い雰囲気は拭えず、こんなことになるんだったらもっとワンピースだとか女性らしい服を選べばよかったかもしれないと後悔する。伏見は少しダブついたスラックスにブイネックのセーターで、シンプルなだけになんだか大人びて見える。そういえば伏見はまだ未成年なのだ。肌寒い時期に着ているダッフルコートやパーカーがまだよく似合うような年齢をしている。秋山は逆に、もう子供じみたミニスカートや落ち着きのない派手な色の服の似合わない歳になっていた。落ち着いた色合いの、膝丈のスカートや、幼すぎないワンピースにばかり最近目がいってしまう。歳はとりたくないものだと、加茂とはそんな話ばかりする。

「インスタントコーヒーくらいしかないですけど、それでいいですか」
「え、あ、いや、おかまいなく・・・」
「そうですか。じゃあシャワーでも浴びてきます?」
「えっ」

伏見から発せられた冗談のような言葉に秋山は目を大きくするのだけれど、どうやら冗談ではなかったらしい。すぐに続くはずの「冗談です」という言葉と溜息がいつまでたっても聞こえてこない。かわりに伏見が秋山の座るベッドに、秋山の細い脚を跨ぐようにして膝を乗せた。秋山はそれを見上げて、細い細いとばかり思っていた伏見の体躯が自分よりずっと大きく骨格がしっかりしているのだと変なところに感心してしまう。

「さすがにその年で処女じゃないでしょう」
「え、いや、え、」
「なんですか、そういうつもりでついてきたんでしょう」

伏見に肩を押されると、秋山の身体は簡単にベッドに沈んでしまった。マットレスが固く、ぎしりと安っぽい音がした。

「ちが、ちがいます!私は・・・」
「普通なら男の部屋にひょいひょいついてこないもんです。いいじゃないですか、どうせあんた俺のこと好きなんだろ」
「それ、は」
「はは、否定しないんですね」

伏見を押し返そうとする秋山の腕を掴んだ手はどうしても男性の硬さと強さをしていた。それがもう気持ち悪くて秋山は顔を真っ青にするのだけれど伏見はそれを意に返さない。秋山のうなじから鎖骨のあたりにゆったりと指を這わせて、「あんたもちゃんと女だったんですね」と薄く笑った。秋山はああ伏見はちゃんと男なのだ、と思った。

「わ、私、が」

秋山が少し震える声でそう言うと、どうしてやろうかと秋山の身体を触っていた伏見はその手を止めた。

「私が好き、なのは、女の子の伏見さんです!」
「・・・は?」
「だって細くて白くて可愛らしくてもう女の子だったらいいのにって毎日・・・はやく謎のストレインさんが仕事して伏見さん女の子にしてって思ってて股間にダモクレスぶら下げてて無駄に固い筋肉ついた伏見さんは嫌なんです!ほんと男とか吐き気がして伏見さんなのに男だともう触られただけで吐きそうっていうか気持ち悪いっていうかすみませんでもほんと伏見さんが女の子ならいいんですけど男の人だったらほんともうこういうのやめてほしいっていうかほんと離してくださいお願いします!」

秋山が一息でまくし立てると、伏見は少しきょとんとした顔になってから、すぐ、「なにそれ」と、すこし面白そうな顔になる。

「そういやあんたレズだってもっぱらの噂だったけどあれ、マジだったんですね。ていうか俺が女とか・・・吐き気がするのこっちなんでちょっと黙ってもらっていいですか」

ほんとはこういうことするつもりじゃなかったんですけど、と伏見はつぶやいてから、秋山の唇に自分の唇を重ねた。伏見の唇はなんだかコーヒーのような苦い味がして、秋山は一瞬何をされたかわからなかった。知らない味がした。女性のそれよりすこしだけ固くて厚いような舌がはいってきて、背中でバチンという音がする。何かが外された音だったのだけれど、秋山の頭は混乱してしまって、とにかく何がなんだかわからなかった。

「・・・なんか、ほんと、あんたちゃんと女やってんですね」

伏見が男のような顔をしてそういうものだから、秋山は少し違和感さえ覚えた。この人は誰だろうと。秋山の思っていた伏見はもっと初々しくて、けれど意地っ張りで、どこか壊れていて、細くて、守ってあげたくなるような、そういう女の子の設定だったのだ。この男は誰だ。秋山はわからなくなる。なんだか、伏見が突然知らない人になったようで恐ろしかった。


END


ちょっと切ります。
攻め伏見とか書きなれないですが伏見攻めも好きです。



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