にょたせぷ5






オフィスは隊員がもうほとんど帰宅してしまったせいで普段よりずっと静まり返っていた。響くのはカタカタと伏見がキーボードを叩く音とパラパラと秋山が資料をめくる音だけだ。秋山は伏見が女性だったならなんて幸せな時間だろうと恍惚としながらもどうして伏見は女性じゃないんだと歪曲した感情を抱きながら資料の最終チェックをしていた。基本的に秋山にはミスが少なく、最終チェックで大きなミスを見つけることはほとんどないのだけれど、伏見に提出する書類にミスがあったなら秋山は死んでも死にきれない。けれど一度でいいから日高のように伏見にこれでもかと罵られ怒鳴られ罵倒されてみたいとはいつも思う。日高なんて胸くらいしか取り柄がないのに伏見さんに罵ってもらえるなんて生意気だ、と常々思うくらいだ。日高のような女を捨てている女は基本的に滅べばいいとさえ思っている。榎本はギリギリセーフで男勝りな加茂はそれでも女性としてみることができるのでむしろ好ましい。だが日高、お前はダメだ。まず化粧をしろ、話はそれからだ、と思ったあたりでチェックが終わった。いつも通りミスはない。

「伏見さん、資料まとめ終わりました」
「ん、ああ、どうも。そこ置いといて。明日チェックするから」

こういうとき日高なら「明日でいいなら俺残業した意味ねーじゃん!」とほざくところだが秋山は違う。もう伏見が自分にならこういう仕事を押し付けてもいいと思っていることが幸せだった。これで伏見の股間にダモクレスの剣がぶら下がっていなければ濡れている。伏見さんなんで女の子じゃないんだろうと今日100回は思ったことを秋山はまた思った。

「伏見さんまだお仕事されます?なんだったらコーヒーいれましょうか?」
「いや、あんたが終わるの待ってたから。もう帰る」
「え、なんかすみません・・・」
「さすがに俺が言った仕事だし。まさかこんなかかるとは思わなかったですけど」

伏見はたまに秋山に敬語をつかう。それは基本的に仕事外の時間であったけれど、こういう仕事が終わったのか終わらないのかわからないときには敬語とタメ口がごっちゃになるようだった。それがまた可愛らしいと秋山は思う。はやく謎のストレインさんは仕事をしてくれないだろうか。

「で、秋山さん」
「はい、なんでしょう」
「今日俺の部屋に来ませんか」

秋山はさすがに何を言われているのかわからなくなった。伏見の部屋に誘われるようなことを自分はしただろうかと。普段通り伏見はそっけなくて口も悪くて舌打ちばかりしていたような気がする。秋山は返答に窮した。伏見の部屋に行きたいといえば答えはイエスであわよくば伏見の部屋の匂いやら雰囲気やら隅から隅まで堪能したいのだけれど伏見は男だ。男の部屋になんて行きたくないし連れ込まれるようなことがあれば舌でもなんでも噛んで死ぬ所存である。けれど伏見の部屋、と秋山がぐるぐる迷っていると伏見は面倒だな、と舌打ちをして「仕事中になんか変な目で見てくるからてっきりそういうことなんだと。そうじゃなかったならもういいです。俺帰りますんで」とこれまたそっけなく引き下がった。そうしたときに秋山はとっさに「行きます!行かせてください!」と言ってしまった。伏見は言質はとったという顔になり、秋山は言ったはいいがどうしようという顔になる。ええいままよ、と思った。どうして伏見は女の子に生まれてきてくれなかったのだろうと神様を憎みながら。


END


伏秋♀が好きなんです。
伏見がなんかクズっぽいのは仕様です。

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