死んでも愛してるだなんて言わないけれど





「日高とかほんとうにさ、たまにすごくしんでほしいって思うときあるんだよね」

五島がそう言うと、日高はなんだか普段はしないような、怖い顔になった。五島はそれをなんでもないような顔をして、受け流す。自分にだけ向ける日高の怖い顔がなんだか好ましくはあったけれど、それが愛おしくはないことを、ちゃんと確認して。それは大前提であるはずなのに、たまに当たり前すぎて忘れそうになる。忘れてはいけないことなのに、どうしてそれを忘れてはいけないのか、二人にはもう、わからなくなっていた。理由の前に行動がある。二人の関係はどこかあやふやで、なのにしっかりと名前がついていた。ありふれた名前だ。恋人だとか、友人だとか、その隙間に言い訳のようにして存在している、関係。

「ゴッティーさ、俺によくしんでとか、しねとか、しんでほしいとか、そういうこと言うけどさ、ほんとに俺がしんだらどうすんのさ」

日高がそう言ったときに、五島は少し真面目に、考えた。日高暁が死んだら。口の中でつぶやいてみる。そうしたら、それはなんだかおもおもしいような、軽いことではないような、そんな気がしてくるのだから、おかしい。普段気軽に「しね」と言っているのに。日高にそんな内心をつつかれているのが、無性に苛立たしかった。だから「は?面倒なこと、言わないでよ」と。そう言うと、日高は少し考えるような顔になった。めずらしい顔だ。きっとない頭をどうにかこうにか、動かしているのだ。そうしてから、日高は「俺はゴッティー死んだら、さすがに少しは泣くかもしれない」と言った。そうして、「でも、死んでほしいって思うときはある。わりと、頻繁に」と呟いた。矛盾しているなぁと、思った。どちらもが、そうだった。おかしなことをしているとわかっている。ちゃんと、わかっている。好きでもないのにからだを重ねて、普段呼びもしない下の名前を呼び合って、なにかの真似事をして、そうして、最後にはお互いがお互いをちゃんと嫌っていることを、確認する。それはまるでマニュアルのように、二人のあいだに横たわっている。しっかりと、そうしなければ、いけないという面持ちをして。

「日高暁がしんだら」

五島は考えるように、言った。日高とは違い、普段から無駄に動かしている脳みそで、ちゃんと考えてみた。

「日高、今、好きな人いる?」
「・・・弁財さん、好きだと思う」
「じゃあ、僕、弁財さん、好きになると思う」
「は?なんで」
「日高がしんだら、日高はこの人が好きだったんだなぁって思いながら、弁財さんをめちゃくちゃにして、汚して、そうして、一人になってみてから、少しは泣くと思うよ」
「なにそれ。やめて。しんでもいやだ」
「日高がそう言うと思って」

五島はへらりと笑った。五島は笑うと、泣いているようになる。だから日高はたまに、五島がわからなくなる。何度も肌を重ねているのに、日高は多分五島の髪の毛一本ぶんだって、理解できていない。しようとも、思わない。それは五島だって、同じだった。同じ色をしているのに、二人はどこまでも交わらない。重ならない。それでよかった。それが、よかった。

「しんでも嫌だと思うなら、しななきゃいいと思うよ」
「でもゴッティー俺にしんでほしいんだろ」
「うん」
「おかしくね」
「おかしくないよ」

五島はなんとなく、弁財の肌の匂いを思い描こうとして、やめた。それがなんだか日高の色をしているような気がして、ならなかったからだ。「暁」と五島は言った。日高は嫌そうな顔になった。日高を「暁」だなんて太陽みたいな名前で呼ぶのは、多分、五島だけだ。そして、五島を「蓮」だなんて、花みたいな名前で呼ぶのも、多分、日高だけだ。それに意味はない。事実はあっても、それ以上のことは、ない。

「なに」
「僕、暁のこと嫌いだけど、日高が好きになった弁財さんのことは、多分好き」
「なにそれ」

「おかしくね」と日高が言ったので、五島は「おかしくないよ」と返した。そうしなければ、いけないという風に。矛盾はどこにもない。二人の関係のように。事実だけが、そこにある。それ以上のことは、なにも、ありはしないのだけれど。


END


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