きっとあなたを幸せなところへ連れて行ってくれる





「伏見さんって足のサイズいくつですか」

秋山が突然そんなことを聞いてきたので、伏見は「なんで」と返した。秋山はこまってしまったような顔になる。伏見は舌打ちをして、「26センチくらい」と答えた。そうすると秋山はなぜか「よかったです」と笑顔になる。そうして、手に持っていた紙袋から箱を取り出した。

「なんすか、それ」
「チャッカブーツです。あんまりデザインがよくて一目惚れして買ってみたのはいいんですが、サイズだけ見て買ったので少し小さくて・・・」

秋山が箱を開けると、質のいい革の匂いがした。濃い茶色をしたアンクル丈のブーツがそこにあった。つま先が一枚の革になっているタイプで、余計な飾り革がない。履けば履くほど足のかたちに馴染んでいくような、そんな靴だった。靴に関してあまり知識のない伏見でさえ、少しくすんだ光沢を見て「これ、高いんじゃないですか」と眉を寄せる。秋山は「はは、」と笑ったまま値段を教えてくれなかった。

「履いてみていただいていいですか」
「かまいませんけど」

デザイン自体飾りがなくてプレーンだったので伏見は嫌いではなかった。秋山が丁寧に紐を解いて、まだ中に詰まっていた紙を取り出すと、片方ずつ伏見に渡した。伏見はほんとうに高そうだな、と思いながら、注意してそれに足を入れた。両足履いてみると、改めてこれがいかに高価な靴であるかわかってしまう。バンプはしんなりと足の形に沿っているし、インソールもゆったりと伏見の足の裏を押し返してくる。その場で足踏みしてみても、それはぴったりと伏見の足のかたちを包んでいて、履き心地がよかった。

「・・・すげーぴったりですけど」
「よかったです。これ、もらっていただけませんか」
「は、」
「俺じゃ履けなくて、押し入れの中にいれたままになっちゃうので」

伏見はそれなりの値段で売りつけられると思っていただけに、間抜けな声をあげてしまった。デザインは洗練されているし、大抵の服に合う色をしているし、なにより履き心地がいい。古着屋などに持っていけばまだ試し履きをしただけなので高値で売れるだろう。それを秋山はなんでもないように「さしあげます」というのだ。伏見には理解できない。

「こんないい靴もらえませんよ。まじでいくらしたんですか。古着屋で売れば半額くらいで売れますよ、これ」
「いい靴だから、知人にもらってほしいなぁって思うんです。気に入りませんか?」
「いや・・・嫌いじゃ、ないですけど」
「じゃあ、もらってください」

秋山は箱の入った紙袋ごと、伏見にその靴を渡してしまった。その紙袋を見ると、少しマイナーなブランドのものだった。ネットサーフィンをしていた時に見かけたことがある。素材とデザインにこだわり、伏見は絶対に買わないだろう値段でそれを販売しているブランドだった。伏見は頭おかしいんじゃないか、という目で秋山を見た。

「はは、流石に出費が痛くないと言えば嘘になりますけど、それでも、いい靴は長くお店に並んでいるよりも誰かに少しでも長く履いていてもらいたいので」
「あんた、ほんと頭おかしいんじゃないのか」
「そう言われると、耳が痛いのですが」

伏見ははきっぱなしになっているそのブーツのまま、もう一度、足踏みをしてみた。しっとりと、それは伏見の足を包んでいる。ぴったりと、寄り添うようにして、人工ではない温かみを持って。伏見はさすがに「ありがとうございます」と言った。そうしたら、秋山は本当に嬉しそうな顔をして、「どういたしまして」と。きっとあなたを幸せな方向へ導いてくれますよ、というつぶやきは、伏見には届かなかったのだけれど。


END


まっちさんへ!
フランスだかどっかの格言に「いい靴は履く人をいい場所へ連れて行ってくれる」みたいなのがあった気がしたような、夢だったかもしれないです。
ていうかこの秋山絶対伏見の足のサイズ把握したうえでこの靴購入してますよね。
なんかやまなしおちなしいみなしな小話になってしまいました。すみません。
リクエストありがとうございました!





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