たった二人きりになっても





※嶺汰さんがコミカライズしてくれた加道をさらに私がノベライズするという暴挙に出てます。後日談的なものとして読んでいただければと・・・
※加茂と道明寺が保育園から一緒という設定



飲み会のあとに道明寺を背負って部屋まで帰ると、さすがに肩が凝った。加茂は汗をかいたせいで少し回ってしまったアルコールに溜息をつく。道明寺はソファにぐったりとよりかかっていて、それにペットボトルの水を押し付けてから、自分は水道の水を流し込んだ。少しだけ頭がすっきりして、そのぶんだけ正気が戻ってくる。随分懐かしい話を持ち出されたものだなぁと思った。保育園の時の話だ。中学にあがってからはからかいのネタとして話題に出されるそれを、なんだか懐かしく思った。そうしてから、最近はからかいのネタや思い出話にもされていなかったそのことを、加茂はなんだか寂しく思った。酔がまわってしまっていたのかもしれない。

「あー・・・加茂・・・水、水ちょーだい」
「お前にさっき渡しただろう」
「えー・・・あ、まじだ。やばい・・・酔ったー・・・加茂ー加茂ー」
「お前が酔っているのは見ればわかる。うるさいからあまり大声を出すな。秋山と弁財の部屋に聞こえるだろう」
「えーなに、加茂は俺より秋山と弁財のが好きなのー?加茂美人さんが好きじゃんー弁財じゃーん・・・俺はー?ねー俺はー?」

道明寺が酔うとこれだからいけない。道明寺が寝てしまうまではシャワーも浴びることができないなぁと加茂は溜息をついた。

「とにかく水を飲め。そのうざったい酔いを覚ましてくれ」
「ひどいー・・・やっぱ弁財なんだー・・・あ、やべ、こぼした」

道明寺はペットボトルのキャップを開けてそれを飲もうとするのだけれど、どうにもうまくいかないらしかった。ちゃぷんちゃぷんと水を揺らしてはこぼし、口をつけてはその端から滴らせていた。加茂は掃除するのは誰だと思っているんだ、と頭を抱えたくなる。

「・・・ぜんぜんうまくのめない。加茂、のまして」
「ペットボトルくらい自分で傾けられるだろう」
「そうじゃねーの、口移し!口移し!」
「・・・そういうことは恋人にでもしてもらうんだな」
「じゃあ加茂恋人になって」

加茂は心臓の止まる想いがした。けれど、すぐに息の塊を吐き出し、「馬鹿なことを言っていないでさっさと水を飲んで寝ろ」とだけ返した。酔っぱらいの言うことを間に受けていたら心臓がいくつあっても足りない。

「あー・・・ふられちゃったなー・・・」
「大げさだ」
「大げさじゃ、ないんだけど。・・・なんか、加茂とずっと一緒にいる気がする」
「そりゃ、ここまで送ってきたからな」
「そうじゃなくて、なんか、保育園からずっと、ここまで、一緒だ」

道明寺の声音に懐かしさのようなものが混ざっていて、耳に甘かった。そこからはもう寝言のようになってしまって、さらに掠れて、溶けて、ぐちゃぐちゃだった。「保育園のとき、キスしたなぁ」だとか「俺のファーストキスは加茂でー加茂のファーストキスは俺でー」だとか「中学の時からかったりもしたなぁ」だとか「それで、今日もキスしてさぁ」だとか、そんな内容を途切れ途切れに、眠たそうな唇の上にのせていった。加茂は立っているのも疲れたので、道明寺が寄りかかっているソファの背もたれに腰を乗せる。ちょうど、背中合わせのようになった。

「なんか、やっぱ、違うんだよなぁ・・・」
「なにがだ。保育園のときと今を比較してどうする」
「んー・・・まぁ、そうだけど。そうじゃなくて、うん、加茂、キスして」
「だから、そういうのは恋人と・・・」

加茂が説教のひとつでもしてやろうと振り返ると、ソファに膝立ちになった道明寺の顔がすぐ近くにあった。そうして、道明寺は加茂の胸ぐらを掴んで、そのまま引き寄せる。ねっとりとしたアルコールの匂いに混ざって、唾液が混じりあった。加茂はどうしても拒否することができなくて、焦った。熱い舌が入り込んできて、さっきの飲み物に冷やされたそれとはまた違った感触に、頭がおかしくなりそうだった。それが離れて、少し呆然としていると、道明寺が一瞬だけ瞳を翳らせて、けれどすぐにいたずらっぽい顔になった。

「うばっちゃったー」

あはは、と笑って、道明寺はおどけてみせる。それが、なんだか無性に切なく見えて、加茂は眉を寄せた。

「なになに、おふざけでしょ。そんな怖い顔しないでよ」

保育園の時と、おなじでしょ、と道明寺が呟いたので、加茂はもう何も言えなかった。今までずっと続いてきたものの先に、これはある。そう思うと胸の締め付けられるような、何かが張り裂けてしまいそうな心地がして、辛かった。どうして辛いのか、それを考えてしまうともうどうしようもなくなってしまいそうで、それが恐ろしい。だから、考えないことにした。考えないことにして、「馬鹿なことをしていないではやく寝ろ」と言った。酷い顔をしてる。二人共。


END


あ、れ、私が書くとあれですね、なんかシリアスになっちゃいますね。
こんなのですみません!
りんさんへ!
リクエストありがとうございました!


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -