贅沢な愛情を背中で笑って






※帝光時代、二年のはじめくらい



紫原はとにかく、自分のものを区別したがった。他人のものが自分の領域にはいってくることには別段の興味を注ぐことはなかったけれど、自分のものが他人の領域に入ることにはことさらに気を使っていた。紫原は他人に何かを明け渡すということをあまりしなかった。他人のものはまあ他人のもので、自分のものは必ず自分のものだ。そういう少し子供じみた線引きをしている。紫原にとってそれはとても重要なことだったからだ。

「紫原、食べるかい」

赤司はよくよく、そう言って紫原に飴や小さなチョコレートや、お菓子を与えていた。女子から貰うらしいそれを、そのまま紫原に流しているのだ。紫原は何かを貰うこと、受けとること、明け渡されることには慣れていたし、歓迎していたので、「うん、ありがとう赤ちん」と言って、いつもそれを受け取った。赤司はそのたんびに「かまわないよ」と、何も食べていないくせにどこか満たされたような顔になった。しかしその顔のどこかには必ず空腹なような部分もあった。紫原はそれに気付いていたけれど、知らないふりをしていた。そういうのはなんだかごちゃごちゃしているし、どろどろしているし、なんだか面倒なことのように思われたからだ。紫原は甘いお菓子を口に入れながら、満たされる感覚をたしかに覚えた。けれど、なんだか、少しだけお腹が空くような、そんな気もしていた。


「赤ちん、食べる?」

紫原はあるとき、ちょっと気が向いたので、なんとはなしに赤司にお菓子の箱を差し向けた。よくある棒状のチョコレート菓子だ。赤司はやんわりと笑って、「オレはこういうのはいらないんだ」と答えた。「こういうの」というのがどういうものなのか、紫原にはよくわからなかったけれど、断られた途端に何か不足感を覚えた。赤司はそんな紫原に笑って、「だからこれもあげるよ」と、ポケットから小さなチョコレートを取り出した。四角くて、キャンディのように包装されたものだ。紫原はそれを「ありがと」と受け取って、ひょいとすぐに食べてしまった。舌のうえでどろどろに溶けて、それはすぐになくなってしまった。紫原はなんだか、ひどく空虚なような気持ちになって、「赤ちんはいいの?」と尋ねた。赤司は満たされることを知らないように「いいんだよ」と答えた。


END

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