綺麗に食べ残されたあと






秋山がなんとはなしに気になったので、昼食の時に伏見に「お昼ご飯、お供させていただいてもよろしいですか」と尋ねた。伏見な秋山の言葉遣いにすこしむず痒いものでも覚えたのか、変な顔をしてから、「構わないけど」と返した。秋山は断られても仕方のないことだと思っていたので、少し間抜けな調子で「ありがとうございます」と答えた。

昼食を一緒にとると言っても、セプター4にある食堂で、だ。伏見は「昼は混むから面倒だ」とコンビニで買っているらしい栄養のあってないようなものばかりいつも食べていた。だから食券を買うときに少しの戸惑いを見せたり、箸を取るときにすこし考えるそぶりを見せたりしていた。秋山は慣れていたので、なんてことはないようにそれをこなして、二人して四人掛けの席に座った。食堂はごみごみと混雑していて、他の席もだいたい埋まってしまっている。なんだか申し訳ない気持ちになりながら、秋山は会話という会話もないだろう食事をさっさとはじめた。

会話は断絶されたものがいくつか転がっていくばかりだった。味が薄いだとか、濃いだとかそういう話がまず転がり、次に午後の仕事についての話題が転がり、それからしばらくして、「混んでるな」という伏見のセリフと、秋山の「そうですね」というセリフが転がった。会話が少なくとも、周囲がざわめいていたので別段の苦痛は感じなかった。しかし秋山は自分が誘ったのだから何か会話をしなければいけないというふうにも考えていた。秋山の定食と伏見の定食がそれぞれ残り少なくなったあたりに、秋山は口だけでなく頭も動かさなくてはいけなくなった。結局動かさなければいけないのは口だというのにおかしな話だ。そんなとき、秋山は伏見の皿にいろんなものが残されているのを見つけた。野菜中心に色々だ。それは几帳面に皿の隅の方に押しやられ、伏見が食べるであろうものとはきっちり分けられている。

「伏見さん、それ、食べないんですか」
「苦手だから」
「はあ、そうですか。そういえば、そんなこと前にもおっしゃってましたね」
「そうだったか」
「ええ、まあ」

秋山が少し会話の選択を間違ったかもしれないと思いながら味噌汁を啜ると、伏見がカチカチと箸の先を鳴らした。つと、秋山が視線を持ち上げると、伏見はなんだか嫌な顔をしている。

「秋山って、あれだろ、布団実家から持ってきてるタイプ」
「え?ええ、そうですけど、まあ、そうですが、なんでわかるんですか」
「それでもって、もう何年もその布団使ってるだろ。天気がいい日は日にあてて、年に最低一回はクリーニングに出して、シーツやカバーも週に一回は洗濯してる」
「どうしてわかるんです」
「出されたもん生真面目に全部食ってるから。そういうやつは基本的に育ちがいいんだよ。育ちがいいやつはやたらもの大切にするし、あとあんた几帳面に同じリズムで飯食ってる。コンビニばっかの飯食ってると俺みたいにひとつずつしか食わないけど、あんたはちょっとずつバランスよく箸つけてるから」
「え、あ、はあ、これは癖みたいなもので」
「そういう癖って、いい子ちゃんしか身につかないもんだから」
「はあ…」

伏見の言い様に腹を立てるほど秋山はいい子ではないと自覚をしていた。しかしながらたしかにこういうのは親の教育だろうなあとも思った。秋山は少しずつ主菜と副菜、味噌汁、ごはんを食べながら、伏見の、綺麗に食べ残された皿を見てみた。なんだか綺麗だと思った。伏見はもう食べるものを失くしてしまったのか、カチカチと箸を鳴らしている。秋山はその異様なまでの光景と、自分の空になった皿とを見比べて、なんだかおかしくなった。

「伏見さんって、別れは適当なところで自分から切り出すタイプですか」
「まあ、そうだな」
「そうですか。俺はひどいですよ」
「なんでだよ」
「相手になんにもなくなるまで付きまとうタイプなので」
「…悪趣味だな」

席が混み合っている。雑談はこれまでのようだ。秋山も伏見も人混みに押されるようにして自分のトレーを持ち上げた。すっきりとなんにもなくなってしまったトレーと、丁寧に食べ残したものとがのっているトレーとを。


END


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