自分だけの星をください






「あ、弁財さん、星綺麗ですよ」

なんとなく終業が一緒になったので日高と弁財は寮まで並んで歩いていたのだが、ふと空を見上げた日高が、きらきらとそれこそ星のように目を輝かせて、そう言った。弁財も日高の指差すそれを見て、驚いた。都会では滅多に星なんてものを見る機会がない。キラキラと銀紙でも貼り付けたかのような星空がそこにはあって、二人は思わず足をとめてしまった。このあたりは街灯も少なく、今日は月もまだ昇ってきていなかった。二人して鼻の頭を赤くしながら、それを見つめた。

「あの一番光ってる星、木星なんですよ」
「そうなのか?」
「で、あっちの青白くチカチカしてんのがシリウスです」
「・・・詳しいな」

弁財は星の知識というものがなかったために、日高の言葉に関心してしまう。日高は馬鹿だとばかり思っていたが、どうにも、違うらしい。自分よりずっと深くなにかを知っている日高が、なんだか輝いて見えた。

「でーあれがオリオン座でーおおいぬ座でーこいぬ座でー繋げると冬の大三角なんだそうです。で、あとはふたご座とーぎょしゃ座とーおうし座とーオリオン座の赤くない方の星で、冬のダイアモンドっていうらしいですよ」

得意げに話す日高の語尾がなんだか妙で、弁財は関心しつつも首をかしげてしまう。

「誰かに聞いたのか?」
「え、ああ、伏見さんですよ。あの人こういうのめちゃくちゃ詳しいみたいで。こないだ一緒に天体観測したんです。すげー寒くて死ぬかと思ったんですけど。明け方まで」
「そう・・・か。あの人、知らないこととかあるんだろうか・・・」
「ありますよ、そりゃ」

なんか弁財さんがそういうこと言うの、めずらしいですね、と日高は笑った。星の光に照らされて日高はきらきらと光っている。吐き出す息さえも白く浮き出て、弁財はなんだか泣きたくなった。

「あ、あとあと、北極星、あるじゃないですか。暗い星なんであんま見えないですけど。あのあたりでチカチカしてるやつ」
「ああ、あるな」
「あれ、今はこぐま座?だったっけ・・・多分・・・なんか、可愛い名前の星だった気がするんすよね・・・ちょっと今思い出せないですけど」
「・・・ポラリスじゃないか」

弁財が少し記憶を手繰ってからそう言うと、日高は「そーそーそれです!」と言う。

「はは、じょーしきでした?」
「まぁ、常識だろうな」
「まぁ、そうなんですけど、今北極星、ポラリスじゃないですか。大昔は違う星だったらしいっすよ」
「・・・そう、なのか」
「あー思い出せない・・・うーん・・・とにかく、違う星だったんです。で、これからもっとずっと先の、俺らがもう死んで、かなり経ったあたりにはまた違う星になるんです。はくちょう座のデネブって星になるらしいです。なんか、びっくりですよね」

日高にそう言われた時、弁財は「星というのは動くものだったのか」と思った。ゆっくりと、時間をかけて、それこそ気の遠くなるような大きな時間の流れの中で、星は動いているのだ。絶対に動かないと思っていた北極星でさえも、その名称はいくつかの星を転々としていく。なんだか不思議だった。絶対に変わらないものなんてないと、そう突きつけられているような心地がした。けれど北極星が変わる頃にはもう自分なんて存在はどこにもありはしないのだろうなぁと、そうも思った。それだけが、切なかった。

「なんだか日高が頭良さそうなことを言っていると殴りたくなるな」
「ひどい!」
「冗談だ。・・・もう、帰ろう。少し、身体が冷えた」
「え、あ、そうですね」

二人はまた何事もなかったかのように歩き出した。日高は街灯の眩しい場所に出るまではしばらくちらちらと空を見上げていたのだけれど、弁財は地面ばかり見ていた。真っ暗で、なにも見えない。北極星が、はやくほかの星になればいいとおもった。


END


なんか日弁っていうより伏←日←弁でしたねすみません。
ついでになんか連載のネタ放り込んでましたすみません。
脊髄さんへ!リクエストありがとうございました!

追記
北極星は紀元前3千年頃にはりゅう座のトゥバンという星で、あと8千年ほどするとはくちょう座のデネブになります。で、1万2千年後にはこと座のベガになるらしいです。なんか不思議ですね。

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