とっくに僕らは大人になって
コンビニというものは多種多様の様々が安価で置いてあり、ついでにいつでも開いているというところに価値がある。高尾と緑間は部活終わりの夜のあたりに近くのコンビニを訪れていた。小腹がすいたのと必要のものを買うという目的があったのだ。今晩高尾の家には親がいないらしかった。だから今日は緑間が親に「友達の家に泊まる」と断り、高尾の家に泊まることになっていた。嘘はついてないのだけれど、後ろめたいところもあるらしい緑間は律儀にもコンビニのあたりで親にメールを打っているらしかった。高尾は先にコンビニで今晩の夕食を物色しはじめた。会計は別々にするらしい。そういうところがまだ高校生だ。緑間もメールを打ち終えると夕飯に何か、と小遣いをもらったらしく、それの入った財布を手に弁当やそこいらの物色を始めた。高尾が何か作ってもよかったのだけれど、部活後にそんな面倒は避けたかった。高尾も同じように弁当のコーナーをたむろしている。そして、それぞれに弁当を決め終わると、今度は夜食にとポテトチップスやら飲み物やらを物色しはじめた。夜は長いのだ。やることをやったとしてももう少し時間がある。飲み物のコーナーには明確ではないにしろ、未成年と成年とでラインが引いてあった。二人ともそんな飲み物に興味はなかったが、それでも高尾が冗談交じりに「真ちゃんビールは?」と尋ねた。二人は高校のジャージ姿である。緑間は「馬鹿なことを言っていないでさっさと飲み物を選ぶのだよ」と。
高尾はぶつくさと「真ちゃんはほんと冗談とか通じないよなあ」とか言いながら、コーラをカゴに放り込んだ。しかし会話の中でずらっと並んだカラフルにぴかぴかと光っている缶に少し興味がいってしまった。大人の飲み物だ。子供は手が出せない仕組みになっているそれらだ。二人が大学生かそのあたりになったら溺れるかもしれないものだった。もっともバスケを続けているかぎりそんなことはないのだろうけれど。しかしコンビニとはまた妙な場所で、年齢制限のある商品であってもレジのタッチパネルにタッチすると簡単に買えてしまうのだ。悪い意味で便利な世の中だ。高尾はそれと同じ目でレジの向こう側にずらりと陳列されている煙草の群れにも目をやった。高尾はそれだけは一生やらないだろうなあと思いながらも、知っている銘柄をちょっと探してみた。そうしたらまた緑間に「おい」ととがめられた。親がいないとはいえ帰宅が遅くなるのに神経をとがらせているらしい。高尾は「もうだいたい選んだかなー」とぶつくさ言いながら、「あ、」と何かに気づいた声を出した。そうしてから、「真ちゃん、先にレジ行って。それで、外で待ってて」とこそこそと緑間に話しかけた。察しの悪い緑間は「どうしてなのだよ」と首を傾げる。仕方ないのでちらりと高尾が絆創膏やらが置いてあるあたりに視線をやって、ひそひそと「きらしちゃってる」と笑って見せた。緑間はそれに一言二言も返さずにさっさとレジに並んだ。
高尾がコンビニから出てきたところで、緑間は白い息を吐き出しながら、高尾に三百円を渡した。高尾は「今日はお小遣いもらってるからいいよ」とそれを断ったけれど、緑間は何も言わなかった。だから仕方なく入用のものにかかったお金の半分を受け取ってしまう。高尾はそれをじっと見つめてから、財布にちゃらちゃらとそれを入れた。コンビニの袋には紙袋がひとつだけ、やたらと存在感を放ちながら収まっていた。
夕食を食べて、早めに風呂を済ませてしまってからは、適当だった。適当にテレビをザッピングしてみたり、時たまバスケの話をしてみたり、ちょっとしたゲームをして時間を過ごした。そうして、高尾がまたわるふざけをして、「ビールあるよ、真ちゃん」と緑間をからかった。緑間は「いらないと言っているだろう」と返した。今日、どうにも高尾は口がうるさい。いらないことをいつもより三割増しであげつらねているようだった。その三割が余計な口で、高尾はソファに並んで座っていた緑間に、出し抜けでキスをした。そうしてから、「しよっか」と。緑間はむっつりと黙ったまま、「明日はたしか朝練が休みだったのだよ」とだけ返した。それは二人だけの合言葉のようでもあった。だから二人は微妙な心持のまま高尾の部屋へ行き、そこでじゃれ合った。じゃれあって、そこからふとしたはずみで本番のところに行きついた。だいたいいつもそんなかんじだ。そして本番となると必要になってくるものがあるので、高尾はそれの箱を開けて、一つ、それを千切った。千切って封を開けてから、「真ちゃん、ちょっと萎えるかもしんない話してもいい?」と笑った。その顔が少し汗でてらてらと光っている。緑間は「今日のお前はなんだか様子がおかしいな」と、今の今までかけていた眼鏡を外した。
「小学校とかのときの性教育の授業さ、あれはマジで今思い出すとわらけるよなー」
「まあ、寝ている間にどうのこうのという内容だったな」
「寝る、っていうのの意味は教えてくんないし。で、あとは中学あたりかな。あのあたりから真面目に教えだしたよな」
これの使い方とか、と、高尾はぬるついたそれをパックから取り出して見せた。間抜けな見た目をしているなあと緑間は思った。それから、そうだ、そういえば、とコンビニのときのことを思い出した。酒やたばこや雑誌には年齢制限があるのに、これには年齢制限がないのだ。それはなんだか不思議なことのように思えた。高校生でもそういうことをしていいのに、そういうことを映したDVDや、漫画は買うことができないのだ。おかしな話だ。高尾は少し萎えてしまった自分のそれを笑ってから、時間を確認して、まだまだ余裕があることをたしかめた。そうしてから、「真ちゃん、これの大人な使い方知ってる?」と、これ、つまるところコンドームをぺったりと緑間に見せつけた。緑間は思いつくところがないのか、さあ…と首を傾げた。高尾は愉快そうに笑いながら、「こうすんのさあ」とそれに口を付けて、ぷくうっと膨らませて、風船にした。趣味の悪い形に膨らんだそれの口を縛って、高尾はけらけらと笑った。
「大人っしょ」
「馬鹿なことをするものじゃない」
「いいじゃん、どうせこれからもっと馬鹿なことすんだからさあ」
緑間はむっつりと黙ったまま、少しぬるつくそれを指でつついて、ぷ、と噴き出した。こんなものが大人のかたちだっていうなら、もっとゆっくり子供の時間を満喫したいものだ、と。しかしひとつ無駄にしてしまった、ということにちょっと苦い思いをするのもまた子供だった。絶対的に自由にできるお金の量が少ない。再利用は無理だろうなあと思いながら、それからぷつぷつと空気を抜いた。あたりが一気にゴム臭くなって、二人して笑ってしまった。さあ、やり直そう。はじめから、間違ったお手本どおりの大人なことを。
END
真菜さんへ
リクエストありがとうございました。