嘘を嘘だと認めたくなくて生んだ嘘






※帝光時代、赤司2年、虹村3年



赤司と虹村は、その日当たり前のように、デートをした。なんてことはない、ありきたりな中学生のカップルのように、限られたお小遣い(といっても赤司についてはあまり中学生の枠組みに当てはめることができないのだけれど)の中から費用を捻出して、ほとんどウィンドウショッピングをしたり、昼食を一緒に食べたり、そのあと喫茶店に入って、ぐだぐだとおしゃべりをしたりした。赤司はそれなりに、笑うべきときに笑い、虹村も楽しそうな顔をしていた。二人で並んで歩いていたときに、そっとお互いの右手と左手が触れてしまったようなとき、虹村はきまりの悪そうな顔になり、赤司も申し訳なさそうに、少し笑って誤魔化した。不純なことはなんにもなかった。

あたりまえだが、二人は中学生だった。中学生で、社会からしたら、まだまだ子供だった。華美な服装をするでもなく、赤司も、虹村も、変なところはない普段着だった。赤司は白地のシャツにループタイをかたどったアクセサリーをつけていたし、虹村は黒の、素材が固いパーカーだった。前を口元近くまで引き上げることができるタイプのパーカーだ。虹村はそのパーカーの前を一番上まで上げて、たまにその影に口元を隠しながらしゃべった。赤司が「何を言っているかわかりませんよ」と言うと、虹村は「わかんなくていいことだよ」と強がった。模範的なデートだった。失敗したところは一つだってないし、おかしなところや中学生らしからぬことはひとつもなかった。手だって、繋がなかった。そうだ、手だってつながなかったのだ。

赤司は帰り際、少し日が傾いてきたあたりの道で、「虹村さん」と虹村に呼びかけた。声に少しだけ寂しさのようなものをにじませて。そうして、自分の右手をちらりと見て、それをすぐにやめた。

「んだよ」
「いえ、なんでもありません」
「…そうか」

虹村は最期まで、言うべきではないんだとわかっていた。わかっていたけれど、赤司も赤司だった。口元まで引き上げたパーカーの内側で、唇を尖らせる。

「なあ、赤司」
「はい」
「今日お前、楽しかったか」
「楽しかったですよ。とても」
「嘘だろ。だってお前のこと、俺知らねーし」

そのセリフを聞いて、赤司は「これだからあなたは苦手なんです」という顔になった。そうして、どうにか繋げないものかと画策した右手をじっと見てから、短い息を吐く。虹村は憮然とした顔で、赤司と視線を合わせようとしなかった。そろそろ夕日が暖かくなるころだ。眠たげな夕日が、ビルの谷間に沈んでいく。ぽってりと、甘い顔をして、ぐずぐずと沈んでいく。赤司はそのあたりをじっと見つめた。じっと見つめながら、「僕だってあなたのことが、」と、つぶやいた。好きなんだ、とは言わない。言えない。言ってしまったら、きっと虹村はそれが嘘だとわかってしまうだろうから。ここまで吐いてきた、嘘のように。


END


千早さんへ。
リクエストありがとうございました。

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