さあ、答えはなんでしょう






青峰と火神が集まると(といっても二人なのだけれど)、きまってバスケの話しかしなかった。最近の部活がどうだとか、大会があるだとか、チームの雰囲気が、だとか、新技開発してるだとか、うまくいっているだとか、うまくいっていないだとか、とにかく、ゴールばかり追いかけている二人なので、バスケの話ばかりになる。一緒にすることもまたストバスだとか、ワンオンワンだとか、とにかくバスケだった。その日もそんなふうに一通りバスケをしてから、腹が減ったので、近くにあったハンバーガーのチェーン店へと入った。そこで火神はいつものように大量のハンバーガーを買い込み、青峰もふつうの人にしたらそれなりに多い量の注文をした。テリヤキバーガーが3つに、コーラLサイズに、ポテトとチキンだ。それを火神の山のように積まれたチーズバーガーを前にして「うげ」と胸やけをこらえるような顔で食べ始める。無言で。いい加減話題が尽きてしまっていた。バスケの話は午前中にだいたいしつくしてしまったし、今はバスケをやっていなかった。青峰はテリヤキバーガーをもさもさと食べながら、自分たちはほんとうにバスケでしかつながっていないんだなあと、そう思った。コーラを啜りながら、火神の方を見ると、気まずそうな視線と視線が交わってしまった。ストバスをして解散して、それぞれ昼飯を食べた方が、少しはマシだったかもしれない。けれど、どうしてか二人はもう少し一緒にいたいと思ったのだ。それくらい、バスケでは息を削っていたのだ。

「なあ、そういや俺最近クイズにはまってんだよ。なんか問題出せ」

テリヤキバーガーをむしゃむしゃと食べながら、青峰はそんなことを言った。火神は「クイズ?」と変に間抜けな顔になる。青峰は馬鹿だったが、火神もそれなりの馬鹿だ。馬鹿だがしかし、「クイズ」という単語の意味くらいは知っていた。アメリカの大学の小テストがクイズと呼ばれているだなんて頭のいい間違いはしない。火神はしばらく真面目に考えていたけれど、クイズというものは出題者が答えを知っていないと出せないものなのだ。火神はいくつか疑問に思うようなこと、たとえば地球の広さだとか、バスケットゴールのリングの大きさだとか、そういうことはあったけれど、そのどちらもの答えを知らなかった。チーズバーガーの山を削りながら、しかし、火神はうんうんと唸っている。どうしても答えが出そうになかったので、仕方がないので機械に頼ることにした。携帯を起動させて、ネットにつないで「クイズ」「簡単」で検索をかける。そうして出てきた問題は「日本の県名の中には漢数字が含まれているものが二つあります。一つは三重です。残り一つはどこでしょう?」だった。それをそのまま青峰に投げかける。

「九州だろ」
「いや、お前、それ州じゃねーか。県だよ県」
「四国」
「それはもう国じゃねーか。だから県だっつってんだろ」
「なんだよ、じゃあお前はわかんのかよ」
「いや今考えてるんだけどよ…カリフォルニアとか、ロサンゼルスとかしか出てこなくて…一応ロサンゼルスはサンって入ってるんだけどよ」
「お前は日本の地名を答えろよ」
「つーかこのクイズ答え載ってねえし。どういうことだよ。くそ、まじわかんねー。上から言ってくしかねーのか」
「まずは東京だろ」
「お前東京が日本の一番上にあると思ってんのかよ。秋田だろ秋田」
「バカかお前は。秋田はなんか横の方にあんだよ。紫原が言ってた」
「まじかよ信憑性高いな。えー関東中心にやってくか…関東…大阪、は違うし…京都も違うな…」
「名古屋って県だったか?横浜とか」
「やっべ俺本気で日本の地理わかんねぇ。つってもアメリカの地理もあやふやだけど。なんで答え載ってねーんだよこのクイズ」

そこから先もあーだこーだと二人で話してみたけれど、答えは見つかりそうになかった。火神のチーズバーガーの山が無くなって、青峰のポテトも底をつきかけている。そんな時間を費やしても答えが見つからなくて、ああもうどうすればいいんだ、と二人して頭を抱えた。生まれてはじめて自分が馬鹿だということに困った。答えがわからないというのはどうにももやもやする。もやもやするのだけれど、それはクイズのせいだけではないようだった。なんだか、居心地が悪いのだ。自分たちはこんなくだらないクイズの話がしたいのだろうか、と。青峰も、ぐちゃぐちゃ考えながら、クイズにはそろそろ飽きてきたのか、背もたれに背中を預けてぶすくれている。だらしなく腰掛けるから、青峰の膝と、火神の膝がガンガンぶつかった。その隙間に、きっとなにかあるのだろうけど、二人して気づかないふりをしている。気付いてしまえばあとは簡単なのだがしかし、「俺にはわかんねーからおまえ言えよ」、と、さっきから膝で押し問答をしていた。もうクイズの話題なんてそっちのけだ。頭の中ではもっと違うことを考えている。

「おい、飯食い終わったな」

青峰がそう言うと、火神は膨らんだ腹をさすりながら、「ん?まあ、そうだな」と答えた。そうしたら青峰がやたら不機嫌そうな顔を作って、腕を組んだ。腕を組んで、ない頭で少し考えるそぶりを見せた。やりたいことはいくつかある。それはバスケではないし、もちろんクイズなんてものでもなかった。バスケではないけれど、この店内ではできないことだ。これは問題だ。青峰にも火神にも答えはわからない。漠然としたもやもやだけ抱えている。これはクイズだ。だからどこかに正解は、存在するのだ。どこにあるのかはわからないけれど。膝の隙間に、ヒントはあるのだけれど。

「なあ、これからどうするよ」

さあ、答えはなんでしょう。


END


ちなみにクイズ方の正解は「千葉」です。

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