そう、そしてそれから、君です/礼猿/奏さん






宗像が当たり前のように目の前で食事するのを、伏見はじっと、不思議なことを見るような眼でみつめていた。宗像が誘ったので、二人で仕事終わりに料亭へと来ていたのだ。料亭は当たり前のように個室で、宗像は運ばれてきた料理を、あたりまえのように手順を守って口へ運んでいた。やたら材料が高級そうな和食だ。伏見は肉メインのコースを頼んでいたが、なかなかに箸が進まなかった。目の前で宗像が食事をしている。酒を飲んでいる姿はそれなりに見たことがあるのだけれど、無防備に食事をしている宗像というのは、まじまじと見たことがなかった。

「箸が進まないようですね。安心してください。ここの会計はわたしが持ちますよ」
「そういうことじゃないです」
「ではなんでしょう。口に合いませんか」
「そういうことでもないです。野菜は食いませんけど」
「ではどうして」

宗像は尋ねてみてから、ふふ、と笑った。別に頼んだ日本酒を口に運びながら、「ああ、私がいるからですか」と。伏見はたしかにそれもあるという顔になった。しかしその表情にまだ混ざっているものがあると見た宗像は「まだありそうですね。なんですか。私には思いつきません」と、箸を止めて、日本酒をまた、一口あおる。

「…あんたでも飯食うんだなあと思いまして」
「なんです、それは」
「いっつもパズル解いてる機械かなんかにしか見えないので」
「いやですね、そんなことを思っていたのですか、君は。…そうですね、私だって、食事くらい摂りますよ。それも、こんな料亭ばかりでなく、もっと安っぽい場所でだって、食事します。昼食だって、摂っていますよ」
「まあそうなんですけど」
「私だって人間ですから」

宗像の言うその言葉が、なんだか伏見には重苦しく感じられた。とても重たい言葉だ。宗像を構成しているものがなんだか不思議で理解できないものではなく、だいたい伏見を構成しているものと同じものなのだと考えるのは、とてもむつかしいことだった。だから伏見の箸はすすまない。柔らかい肉に箸を差し入れて、食べやすいくらいに千切る作業しか、さっきからしていなかった。飲み下すのに時間がかかる。同じ人間が、同じ場所で食事をしているというのは、不思議なことだ。相手が宗像であれば、それはいっそう、そうだった。宗像は「私だって、人間です」と、もう一度言った。それから、「君と私を形作っているものがほとんど同じであるというのは、不思議なことですね」と。伏見は考えていることを全て見抜かれたような気になって、ぞくりと寒気を覚えた。

「正しくは、まるっきり同じでは、ないですけど。そうですね、摂取しているものは、違うのですから。私の場合は和食と…日本酒と、…まあそんなところです。それから、」

それから、のあとに、宗像はふふふ、と笑った。酒がまわってきているらしい。伏見の方に視線をやって、もうわかっているでしょう、と。静かに、伏見を追い詰めるように。


END


奏さんへ。
リクエストありがとうございました。

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