愛されたいとは限らない/黄緑/きた浪さん
黄瀬は緑間が苦手だった。何を考えているのかわからないから。ずっと、中学の頃からそうだった。彼ばっかりは黄瀬の誘いや提案に乗り気ではなかった。けれど、黄瀬を嫌っているようでもなかった。だからよりわからない。ずっとわからなかった。黄瀬は人の中身や、腹の底を読む能力に長けていたから、より一層、苦手だと思った。そう思っているうちに、緑間をなんとなく追いかけるようになった。べつに苦手意識がどこかで恋慕の情へと変わったとか、そういうことではもちろんない。これから先もきっとそういうことはないのだと、黄瀬にはわかってた。わかっていたから、たしかめたかった。
高校にあがってからは、住んでいる場所が離れてしまったせいで、黄瀬と緑間が顔を合わせる機会はめっきり減ってしまった。減ってしまったけれど、全くないかと言うと、そういうこともなかった。大会では顔を合わせるし、東京へ練習試合で行くときには、黄瀬はなんとはなしに緑間に連絡を入れていた。それは緑間が特別、というわけではなく、黒子や青峰にもそうしていたから、そうしていた。けれど、青峰や黒子からはたまにしか返信が返ってこないのに対して、緑間からは毎回律儀に返信があった。だから、さらにわからなくなってしまった。そして、練習試合があったあと、連日でそれが組まれていたので、黄瀬の所属している部は、一晩、東京に宿泊することになった。だから、黄瀬は青峰と黒子と緑間に、「夜自由時間あるから、暇ならストバスしようっす」とメールをした。青峰と黒子からは、予定があるから無理です、だとか、遠いから無理、だとかこういう返事が届いたのに、緑間からだけ、いいだろう、という返信が届いた。黄瀬は少しだけ、間が悪いなあと思った。こういうときSNSであれば、他の人物がどういう返事をしているのかが見れるので空気を読みやすいが、こういうデジタルなのにアナログなやりとりだと、空気の読みようがない。緑間はもとから空気を読まないところがあったので、だからどうだ、ということもないのだけれど、黄瀬は自分から誘っておいて、憂鬱になった。
待ち合わせはストバスのコートだった。黄瀬が少し早めにきたのに対して、緑間は時間きっちりに現れた。いつものうるさい連れはいないらしい。黄瀬が「あれ、ひとりなんすか?」となんとなく尋ねると、「おまえが俺だけ誘ったのだろう」と返ってきた。どうやら緑間はメールの一斉送信機能を知らないらしく、青峰や黒子について言及することはなかった。なんだか変な誤解をされていやしないかと黄瀬は思ったので、「いや、青峰っちと黒子っちも誘ったんすけど、断られたんすよ」と返した。緑間はこれまた無感動に、「そうか」とだけ答えて、持ってきたらしいバスケットボールを地面についた。ドリブルの渇いた音があたりに響く。
「緑間っちと俺って、相性悪いのに、なんできたんすか」
「なんの相性だ。今日のおは朝では相性が良かったから来たまでなのだよ」
「ああ、そうなんすか。いや、そういうのじゃなくて、バスケのプレイスタイルとか…そういう相性」
「そうか?悪くはないと思うが。どちら側に立ったときも」
「んーまあ、そうなんすけど」
緑間はここにくるまでにストレッチは済ませてきたらしい。なんなら、部活終わりらしかった。ドリブルを何度か繰り返して感触を確かめると、それをゴールへと放った。ボールはいつものように高く高く飛んで、ゴールへ吸い込まれていく。ボールがネットをかするいい音がした。黄瀬はわざと嫌われるような言葉ばかり選んで、会話をしていた。なのに、緑間はそれを気にしたふうでもなく、なんでもないことのように、返していた。だから、黄瀬にはわからない。黄瀬は緑間が苦手だった。だから、同じくらい、嫌われたかった。そうじゃないと、スタートラインにすら立てないような、そんな気がしていたものだから。乾いた音が響く。ゴールをくぐったボールが、地面でバウンドする音だ。
END
きた浪さんへ
リクエストありがとうございました。
title by 深爪