雨のち耳鳴り/加茂道/夜宵さん






見回りをしていたら、急にバケツをひっくり返したような雨が降ってきた。もちろん加茂も道明寺も傘なんてものは持っていなかったし、椿門まで走るにしたって距離がありすぎた。だから手近な屋根があるところに退避して、雨が止むのを待つことにした。こういう雨はすぐやんでしまうと、わかっていたので。

「すげー雨だったな」
「そうだな。なかなか濡れてしまった」
「隊服絞れそう」
「皺になるからやめておけ。しかしこれはクリーニングだろうな」
「めんどくせ」

道明寺が頬に張り付いた髪の毛に手櫛を入れて水気を飛ばすと、おんなじように加茂も髪の毛から水を落としているのが見えた。しかし加茂の髪の毛は道明寺よりずっと長い。それを全部まとめて、両手でぎゅっと絞っている。隊服のことは気にするくせに、自分の髪の毛が痛むことは気にしないらしい。ついでにハーフアップにしていた髪の毛もほどいて、邪魔にならないようにと全部まとめて後ろでくくっていた。遅れた髪の毛が水気も含んで、頬に張り付いている。そこから水滴が滴って、加茂の顎へと伸びた。

「なんだ」
「いや、雨いつごろやむかなーと思って」
「俺は天気予報士じゃないんだ。そこまではわからん」
「いやそういうことじゃねーよ」
「じゃあどういうことなんだ」
「…どう、なんだろう。いや、なんつーの、決まり文句みたいな、そういうやつだって」
「そうか」

加茂は水気を一通り払い終わると、ふう、と一息ついた。道明寺はどうせいつか渇くだろうと、そのままにしている。髪だけは耳にかけて、頬に気持ち悪いものが張り付かないようにしていた。年が離れた二人となるとなかなかに共通の話題も見つからない。部屋でもだいたい仕事の話か、適当な雑談ばかりしている。だからこういうとき、二人は困ってしまう。話題は雨についてくらいしか見つからないものだから。雨は雨脚を強めることも弱めることもせずにざあざあと降っていた。かろうじて濡れなかったタンマツで時刻を確認しながら、加茂が溜息をつく。その横顔が、とても様になっていた。道明寺がそれをじっと見つめていると、加茂はまた、「なんだ」と聞いてきた。道明寺はまた、「いや、雨いつごろやむかなーと思って」と返した。そればかり繰り返していたのに、道明寺は、どこか、耳鳴りがしているような気がした。わんわんと、それは大きくなっていく。大きくなって、いつか、道明寺を飲み込んで、それでもまだ、ずっと鳴りやまない、そんな耳鳴りだ。


END


夜宵さんへ
リクエストありがとうございました。

title by 深爪

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