ねえ好きって何色だったっけ/あおさん






※伏見吠舞羅時代


伏見がその日バーを訪ねると、そこには当たり前に草薙がいて、ソファには周防が横になって眠っていた。その近くに十束も腰掛けている。しかし八田と鎌本の姿は見当たらなかった。待ち合わせの時間はそろそろのところに迫っていたがしかし、まだ顔を出していないらしい。伏見は居心地の悪さを感じながらも、軽く会釈をして、バーのカウンターに座った。そこには十束が持ってきたのか、このバーには少し似合わない置物が置いてあった。特殊な液体を硝子で囲った置物だ。中の赤い液体が、もったりとした動きでもって、沈んだり、浮き上がっていたりする。透明な液体の中を、いったりきたり、まるく浮き上がったり、伸び上がったり、ちぎれたりして、ずっと浮遊と沈殿を繰り返している、そんな置物だった。伏見は特に見るものもないので、頬杖をついて、少し離れた場所にあるそれを眺めていた。伏見の指先から肘ほどよりも少し長い円筒だ。わりに大きい。草薙が文句をつけて片づけるのに時間はかからなさそうだった。

伏見は、その、中の液体が重力なんてこの世界にないとでもいうように浮遊したり、沈んだりするのを眺めながら、ただ、「赤だ、」と思った。中の液体はただただ赤かった。何かを象徴しているように、そうだった。十束は草薙と話し込んでおり、逆もまたしかりだった。だから伏見は黙ってそれを見ている。ただ、「赤いな」と思いながら、見つめている。

ぼんやりとそうしていたときに、いつの間に起きだしていたのか、周防がその置物の近くに立った。伏見は少し驚いて、頬から手を離す。周防は伏見の方をちらりとも見ないで、ただその置物をじっと眺めていた。そうしていたら、草薙が「なんや、気になることでもあるんか」と首を傾げる。周防はそれに、「いや、ただ赤ぇな、と思って」と答えた。伏見はびくりとして、すぐにそこから目を逸らした。ただ、少しだけ、恐ろしかった。なにが恐ろしかったのかは、わからない。その先になっても、ずっとずっと先になっても、わからないままだった。ずっと。


END


あおさんへ。
リクエストありがとうございました。

title by 深爪

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