わたしはあなたのやわらかな愛でできています/水嶋。さん






「伏見君、あなた、ちゃんと食事は摂っているのですか」

宗像は伏見の一段と薄っぺらくなった腹のあたりをなでて、そう言った。服越しでなく、直に触っている。だからつまりはそういうことだ。ふたりは布の上に重なっていた。宗像が伏見の上にまたがり、伏見がその下で寝ている。伏見の前はだらしなく肌蹴ていた。宗像がそうした。伏見はなんのやる気もないような顔をして、「それなりです」と答えた。きっと伏見は久しく、温かい食事というものを摂っていない。伏見の腹は、身体の真ん中らへんにあるのに、ひやりと、宗像の手よりも冷たかった。

「最近のゼリー飲料ですとか、栄養剤はそれなりに効果を期待できますが、それだけではきっと、いけませんよ」
「あんたは俺の保護者かなんかなんですか」
「いえ、保護者はこんなこと、しないでしょう」

宗像は言葉をもてあそぶようにそう言って、ついでに手を下に滑らせ、伏見のベルトももてあそんだ。カチカチと爪とバックルが当たる音がする。伏見の腹はうっすらと筋肉のかたちを顕わにしていた。肉が薄いのでそうなっている。実質的なものはきっとなんにもない。伏見の腹の中のように。

「きっと、それではいけないんですよ。今度何か食べに行きますか。外食になりますが」
「残業手当はつきますか」
「つきませんよ。食事代くらいは、出しますが」
「なあ、あんた、こういうの、楽しいの。金出せば俺はなんでも差出しますよ。でもそれって、結局、ゼリー飲料とか、栄養剤とかと、かわんないんじゃないですか」
「おや、…ふふ、どうしました、今日のぶんのそれを、返してくださるんですか」
「そんなわけないじゃないですか」
「そうですか。では、私の与えたものはきっと、それらに変わるのでしょうね。そうして、あなたの、この冷たい腹におさまって、あなたをかたちづくるのでしょう。それもまた、面白いと私は思うんです」
「俺はなんにも面白くないです」
「そうですか」

宗像はくすくすと笑いながら、伏見のベルトを緩めた。緩めて、自分の首の布も取り払い、するすると指を滑らすように、前を開けた。真っ白な胸と腹が、そこから覗く。伏見は目を細めて、ゆるゆるとそこに指を伸ばした。そうして、ぺったりとその腹のあたりに触れてみた。その腹は、伏見の手と同じくらい、冷えている。のっぺりと冷たかった。伏見は喘ぐような息を漏らして、「あんたはなにでできてるんですか」と。その指は力なく宗像のベルトのバックルまで降りてきて、カチリと、音を立てた。爪の当たる音だ。

「さあ、なんでしょう」

宗像は少し疲れたような顔をして、そうつぶやいた。空腹をしているような声音だった。ずっと前から、なんにも食べていないような、そんな声、だ。


END


水嶋。さんへ
リクエストありがとうございました。

title by 深爪

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