さみしくないとはいえないので(咲夜さん)






※帝光時代



夏の暑い日に、コンビニのクーラーというものはなかなかにありがたい。特に、部活帰りで火照った身体を冷やすには、スポーツドリンク以外の何か炭酸ちっくなものだったり、果汁の入ったものだったり、そういうものが必要だ。だから、中学二年生の6人は、いつもコンビニを必要としていた。暑い夏の日の部活のあとには、コンビニに寄らないとやってられない。

コンビニにはすごい数の飲み物がそろっている。炭酸から果汁100パーセントから果汁が入っていないのにレモンの味がするらしい飲み物だとかお茶だとかポカリだとか、とにかくたくさんの商品がある。その中から、6人は好きな飲み物をひとつずつ選んでレジへ持っていく。時には奮発してアイスを買うこともあった。中学生のお小遣いなんてものはたかが知れている。その中からやりくりして、6人はそれぞれ選びたいものを選んだ。けれど、だいたい1種類買えば、他の5種類もなんとなく味見できるということがわかっていた。だから、基本的に迷わない。いちばんのものを選ぶ。黒子は果汁0パーセントなのになぜかレモンの味がする飲み物を選ぶし、青峰は決まって炭酸を選ぶし、黄瀬ははやりの不思議な味がするらしい飲み物を選ぶし、緑間は和風テイストのドリンクを選ぶし、紫原はとにかく甘いものを選ぶし、赤司はポカリを選ぶ。そうしてコンビニの前でちょっと立ち止まって、それらの飲み物が半分くらいになるまで、なんでもないことを話すのだ。

「うわっこの味俺苦手っす…」
「つーか買う前からそれ変な味だってわかるだろーがよ。評判わりーので有名」
「いやでもだって1回は飲んどかないとなって思ったんすよー。うわー黒子っち、口直しにそれちょうだい。あとこれ飲んでみて!まずいから!」
「いやまずいと分かってるものをなんで飲まないといけないんですか…」
「黄瀬ちんそれひとくちちょうだい。気になるから」
「あ、テツ、それ俺もひとくちな。代わりに炭酸やるから」
「どうぞ」
「緑間、それ、ひとくちくれないか。気になっていたやつなんだ」
「かまわないのだよ」
「あーのど渇くっす!赤司っちポカリちょうだい!」
「かまわないよ」
「なー緑間ーそれうまいのかよ」
「ふつうなのだよ」
「ふーん」

そうして時間をちょっとつぶしてから、それぞれの家に帰っていく。ひとつえらぶだけで、むっつ手に入る。だから迷わなくていい。自分のいちばんほしいものだけを選んでいればいい。それでよかった。それだけで、よかった。



高校3年の冬に、黒子はひとりで、コンビニに立ち寄っていた。立ち寄ってみて、なにか暖かい飲み物を買おうと、そう思った。中学生のお小遣いなんてものはたかが知れている。だから黒子はあたたかい飲み物のコーナーへ行って、ひとつだけ、何か選ぼうと思った。そうして、おびただしい数のあたたかい飲み物に囲まれてみて、茫然としてしまったのだ。だって、ひとつだけなんて、えらべない。自分が一番欲しいのがなんなのか、わからなかったものだから。


END


咲夜さんへ。
リクエストありがとうございました。


title by 深爪

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -