君は宇宙(まなさん)






「今朝、人工衛星の打ち上げがニュースになってたね」

高尾がいつものようにリヤカーを括り付けた自転車をこぎながら、ぽつりとそんなことを言った。緑間は「そういえば、そうだったかもしれない」と言った。緑間の朝の記憶なんてものは大半がおは朝の占いで占められている。一番大事なことがそれで、その他はだいたい、記憶の隅っこに引っかかっている程度だ。そんなものだ。高尾は一生懸命に自転車を漕ぎながら、「成功したらしいよ、今のところ」と話を続ける。男子高校生らしからぬ会話ではあった。けれど、雑談にはちょうどいい。緑間も、「そうなのか。それは、よかったな」と言った。

「今のところは、か」
「そー。今のところはね。人工衛星ってあれらしいよ、わりと老朽化とかで制御不能になっちゃうパターンもあるんだって。まあ、観測目的らしいから、それでもいいっちゃいいんだろうけど」
「詳しいな」
「いや今朝のニュースで全部やってたんだって。ほんとおは朝しか見てないのな。おは朝の占い」
「それ以外の何を見るというんだ」

高尾はこれだから、という顔になったけれど、学校に遅刻しないためにも、ペダルをまわす脚は止めなかった。えっちらおっちら、それは進んでいく。

「古くなって言うこときかなくなっちゃったやつはそのまんまにして、それでまた新しい人工衛星打ち上げてるんだって」
「要領の悪い仕組みだな」
「でも、新しいの打ち上げないと気象情報とか入ってこないから、すげー困るんだってさー」
「それもそうだな」
「それで、その制御不能になった人工衛星とか、ロケットの壊れたやつとか、宇宙ステーションから排出されちゃった部品とか、そういうの、宇宙ゴミって言うらしいよ。スペースデブリ」
「そういえば問題になっているとどこかで聞いたことがあるのだよ」
「さすが真ちゃん。頭いいから記憶力も抜群だねー」

からかうような高尾の言い方に、緑間は少なからずむっとしたようではあった。しかし、文句を言うつもりはないのか、また、リヤカーの上で読んでいた本に目を落とす。優雅なものだ。高尾はやはり、ペダルを回し続けている。

「なんかさー怖くね?それって」
「なにがだ」
「地球にあるものどんどん打ち上げてさーカギラレタシゲンってやつから抽出したさーやべぇ金かかってるもんをゴミみたいにどんどん排出してくんだよ。最後には地球になんも残んなかったりしてーって思うとさーなんかアレだよなー」
「…貴様にしては真面目な話題なのだよ」

緑間はなんでもないことのように、「そうだな、それは怖いかもしれないな」と、つぶやいた。今まさに高尾から打ち上げられた人工衛星を、なんでもないことのように叩き落としながら、そう言った。


END


まなさんへ。
リクエストありがとうございましたっ

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