ただひとつの毒であれ





※伏見吠舞羅時代


バーの中はとても賑やかだった。今日はいいのか悪いのか、一般客がおらず、バーの中では吠舞羅の面々が賑やかにしている。人が集まっているのはやはり尊の座っているソファのあたりで、十束、八田、鎌本もその周辺にいた。草薙はいつものようにカウンターの向こう側にいたが、客がいないからなのか、煙草をくわえて、ジッポでカチャンと火をつける。一口目を丁寧に吸い込んで、それをふうと吐き出した。近くのカウンター席でタンマツをいじっていた伏見は、その煙にわずかながら眉をひそめた。

「嫌やった?」

草薙はそんな伏見の様子に悪びれもしていない表情で首を傾げる。そんなことを言っているそばから二口目を吸うのだから人が悪い。伏見は今度こそ舌打ちをして、「気分いいもんじゃないです」と、出されていたジンジャーエールをちびりと飲んだ。

「今のご時世、学校で嫌ってほど煙草の有害性を習わされるんで」
「へえ、そうなんや。俺んときはどうやったかな。まあ、あったかもしれんけど、伏見みたあ、そない真面目に聞いてへんかったさかい」

伏見がほんとうに不機嫌そうな顔を向けると、草薙は肩をすくめて、三口目を吸った。吸ってから、それをそのまま、伏見の顔の方に吐き出す。伏見は舌打ちをして、「どういうつもりですか」と、草薙を睨めつけた。

「さあ…。ま、今夜の予定は空けとけよ、的な」
「…わかりませんね」
「まあ、伏見はまだそんな年やないか」

わかっているのか、わかっていないのか、草薙からすれば判別はつかなかった。草薙はそっぽを向いて、また煙草を吸う。草薙の煙草は、周防のそれに比べたら重くない。5ミリか6ミリか、そこらだ。草薙は手すさびのように煙草を吸う。だからそれくらいでちょうどよかった。口淋しさからそれをはじめて、気が付いたら肺の中はもう真っ黒だ。草薙はちょっと笑ってから、「酒でも出そうか」と伏見に聞いた。伏見は当たり前のように「未成年です」と答える。

「せやな、せやったわ」

草薙は自分に何か言い聞かせるようにそう言って、最後の一口、煙草を吸った。フィルターの焦げた、嫌な味がした。


END


唯さんへ
リクエストありがとうございました

title by 獣

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