キスミィ・ダアティ・ボヲイ(唯さん)






組織が変わってしまっても縁というものはなかなか切れないものだ。それが綺麗な縁ではなく、汚い縁ならば、なおのことそうだ、と草薙は思った。草薙と伏見には変な関係がある。俗に言う身体だけの関係というものだ。お互い反目しあっている組織に所属しているために、情報を少し入れておきたいという黒い腹もあるのだろう。少なくとも草薙はそう思っていた。だからこんなけったいな関係を長々と続けている。

草薙と伏見はどちらともなくタンマツでそっけないメールのやりとりをする。あからさまに「セックスしよう」なんてメールは打たない。内容のない空メールを送るときもある。それで、それが届いた方が、都合のいい日どり、時間を指定するのだ。たいてい、メールをするのは草薙だ。伏見からのメールなんてものはここしばらく、受け取っていない。

場所なんてどこでもよかった。駅近くのうらぶれたホテルでも、やたら豪華でチープな内装の大通り周辺のホテルでも、どこでも。やることができればよかったので、どちらかというとベッドとシャワー以外なんにもないような部屋を、草薙はよく選んでいた。ぐるぐる回るベッドなんて必要ないし、イルミネーションの色が変わる必要も、どこにもない。必要なのはふたりが抱き合えるスペースと、抱き合える時間と、ふたりのからだ、それだけだ。気持ちだって必要ない。こうしてみると、とても荒んだ関係だった。荒んでいるけれど、シンプルな関係だ。

ここまでくるともう、服を脱がし合うようなそんなまどろっこしいことはしない。そんなことをする時間が面倒なので、自分でさっさと脱いでしまう。恥じらう気持ちなんてものはどこかに置き忘れたか、最初からなかった。けれど、その日ばかり、草薙はなんとなく、シャツを脱いだ伏見の身体をじっと見つめてみた。見つめていると、伏見が嫌そうな顔になったので、その顔に、「ちょっとな」と言って、キスをした。キスなんてするのは久しぶりかもしれないなあと思いながら。そうして、伏見を狭いベッドに倒して、上から見下ろす。鎖骨のあたりにひきつれた、ひどい火傷のあとがあった。痩せた身体が目についた。それを見て、草薙はふふふと笑う。

「はは、汚いな」

草薙がそう言うと、伏見はまるで「そんなの当たり前でしょう」という、怒りもなんにも感じていないような顔になった。あきらめた顔にも似ている。まだあきらめるには早い年齢だろうに。

「お互い様でしょう、そんなこと」

そう伏見は笑って、キスをした。味気ないキスだ。


END


唯さんへ
リクエストありがとうございました。

title by 獣

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