痣になれたら跡になれたら傷になれたら、ただ愛せたらいいのに(SKさん)






宗像礼司はうつくしい。頭のてっぺんからつま先まで、なんなら名前も仕草もなんだって、「うつくしい」とか「きれい」とかそういう言葉がぴったりとあてはまる男だ。男でそんなことを言われてうれしいかというと、まあ、そうではないのだけれど。少なくとも伏見はそう思っていた。それでも、伏見が宗像を眺めやるときはいつだって宗像はうつくしくて、きれいだった。伏見は「宗像礼司」とつぶやいてから、「伏見猿比古」とつぶやいてみた。なんだかそぐわない気がした。そぐわない気がしたけれど、うまいことふたりはつながっている。世の中そういうものなのだなぁと、思わなくはなかった。

宗像が伏見にキスをするとき、それは「キス」というよりか、「接吻」だとか「くちづけ」という言葉が似合うような装いをしていた。伏見がちょっと気が向かなくて、目を開けたままにしていると、宗像はその目をそっと左手でふさいで、いとも簡単にくちづけてしまう。まるで少女漫画だ。そうされたとき、伏見は決まって舌打ちをする。舌打ちをしてから、宗像の胸倉をひっつかんで、強引なキスをした。そうすると宗像はにっこりとほほ笑んで、「積極的なのはいいことです」と言う。伏見は気に食わない、とまた、舌打ちをする。その繰り返しだ。

なんだかんだ、うまくいっているといえば、うまくいっているのかもしれない。愛人みたいな立ち位置だろうと、愛を囁きあうような関係ではなかろうと、宗像と伏見はどうにかこうにかつながっている。つながっているけれど、つねづね、伏見は宗像があんまりにも綺麗すぎると思っていた。宗像には一点の曇りもない。肌を重ねる時ですら、宗像はきれいだった。伏見はときたま、自分はほんとうにこの男に抱かれているのだろうか、と思うときがある。宗像のそれはセックスだとか、性交だとか、そういう、俗っぽい名称が似合わないかたちをしていた。けれど、肌はたしかに重なっているし、枕だってたしかに交わしている。居心地が悪かった。綺麗なことをしている気分になる。やっていることは、どうしようもなく汚いのに。伏見はそれが気に食わない。


ある日宗像が執務室で、そういう所謂「きれいなこと」に及ぼうとした。伏見は「こんなところでか」と思った。思ったけれど、悪くはないとも思った。気怠い午後の日差しが窓から差し込んでいる。うとうとと、このまま眠ってしまいそうでもあった。伏見はおおきくてどっしりとした執務用のテーブルに押し倒された。宗像は「たまにはこういうのもいいでしょう」とにこにことしている。綺麗な顔だ。そうして、うつくしい指先でするすると自分のスカーフを引き抜き、伏見の制服を肌蹴させた。どこまでもきれいだ。どこまでもうつくしい。けれど伏見はそればっかりは気に食わないのだ。だから、スカーフの抜けた宗像の襟ぐりをひっつかんで、自分に引き寄せた。

「たまにはこういうのも、いいんでしょう」

そう言って、宗像の首のあたりに、尖った犬歯を突き立てる。そうして、がじがじとそのあたりを噛んで、さいごにべろりと舐めてやった。綺麗な宗像の首元に、しっかりと、汚らしい獣のあとがついている。きれいだと思った。いままでとは違う意味で、きれいだと、思ったのだ。


END


SKさんへ
リクエストありがとうございました。


title by 深爪

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