いとしいだけじゃお腹はいっぱいにならないよ(メコさん)






「一緒に飯食おうって、俺、真ちゃんのこと誘うじゃん」

教室で机を合わせて昼食をとっているときに、高尾が焼きそばパンをかじりながらそんなことを言った。わりと食べづらい焼きそばパンを、高尾はうまい具合にするすると口の中にいれて、噛んで、飲み下して、へらへらと口を動かしている。緑間は持参している弁当をもくもくと口に運んでいた。食べるときはしゃべらない流儀らしい。それがマナーと言えばマナーなのだけれど、誰かと一緒にご飯を食べるとき、なかなかに守ることのできないマナーでもある。高尾はそんなこと知ったことかともふもふ言いながら、ちょっと声を潜めた。

「それって、一緒にセックスしようって誘うのと、あんまりかわんない気がするんだよね」

高尾がそんなことを言ったものだから、緑間は食べていたご飯を盛大に噴き出してしまった。高尾は「あはは、きったねぇ」と笑ってみせる。高尾の焼きそばパンは麺の一本もはみ出すことなく、すました顔で高尾の手の中にあった。焼きそばパンはなかなかに食べづらい。綺麗に食べられる人物というのはなかなかいないだろう。けれど高尾は綺麗に焼きそばパンを食べる。なんでもないことのように、口におさめていく。

「繋がりの見えない話だ」

緑間がペットボトルから一口二口とお茶を飲んで、どうにかそう切り返すと、高尾は「そうか?」とまた一口焼きそばパンを食べた。あと半分は残っている。パンだけがたくさん、だとか、麺がこぼれそうになっている、とか、そんなことはなく、綺麗に半分ずつ残っている。

「だって、身体んなかにもの入れるのは同じだろ」

高尾はなんでもないことのようにそう言って、むしゃむしゃと焼きそばパンを食べた。ついでにパックの野菜ジュースも時たま啜っている。高尾の食べ方はあまり綺麗ではなかったがしかし、食べているものは綺麗になくなっていく。マナーにのっとっていなくたって、別に綺麗に残さず食べればそれでいいだろ、というように、高尾はものを食べる。対して緑間は、きっちりとマナーを守って、食事中は言葉少なになるし、犬食いはしないし、箸も正しい持ち方でもって扱う。

「だからといって食事中にそんな下世話な話を持ち出すやつがあるか」
「食事中だからだろ。て、こういう話してるとさ、なんか変な気持ちになってこない?一緒に食事してるってことはさ、つまり…」
「高尾」
「へいへい」

緑間がまたペットボトルからお茶を飲んだあたりに、高尾は綺麗に焼きそばパンを食べ終わった。手にソースがついていたり、口の周りが油でてかっていたりとか、そういうことはない。高尾はマナーはともかく、飯は綺麗に食べる。どうしたら綺麗に食べられるのか、もとから知っているかのようにきれいに食べるのだ。

今日の午後はたしか自習がはいっていた。教師がインフルエンザだかなんだかで休んでいるのだ。朝のホームルームで伝えられていたから、緑間は午後の時間は近々あるテスト勉強にあてようと思っていた。そんなことを考えながら、もくもくと食事をする。そうして、食べ終わったらきちんと「ごちそうさまでした」と言った。高尾はなんだか懐かしい言葉だなあと思った。ほんとうはいけないことだけれど、たくさんの人がだんだんとそういう手続きみたいなものを踏まなくなる。高尾はかさかさとパンの入っていた袋を丸めながら、「そうだ、真ちゃん」と緑間にまた声をかけた。

「ねえ、一緒にセックスしよう」

まるで「一緒に飯食おう」、なんて、誘うみたいに。ついさっき、そう言ったように。


END


メコさんへ
リクエストありがとうございました。

title by 深爪

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -