ばいばい、すべて愛でした







※中学時代の話
※僕司と俺司が出てきます。捏造多め。







僕の愛したひとはたったひとりだ。大切なひとも、たったひとりだ。そして僕の大切な人は僕と同じ人を愛している。ずっと前からそうだった。あの人の唇を尖らす変な癖も、生真面目な癖に暴力的な一面も、全部全部僕に向けられればいいと思っている。僕たちはふたりいたけれど、それでも、僕は彼を独り占めしたかった。あのあたたかくておおきな掌で頬に触れられて、唇にキスしたいと思っていた。僕はいつも彼を見つめている。表層に出ているのが僕ではなくったって、それはきまっていた。僕は彼を、虹村主将を愛している。愛している。

卒業式だった。三年生がいなくなる。いなくなるといったって、もちろんこの世界からいなくなるわけでは、ない。先輩方は高校に進む。この世界からはいなくならないけれど、どこかへ行ってしまう。中学生にとって、同じ学校でないということは世界が違ってしまうのと同じだった。僕だって中学生だ。多少の寂寥を覚える。そして、僕は主将だ。忙しい。とても忙しくなる。大会で優勝するためにいろんなものを削っていかなくてはいけない。もういなくなってしまう人と会っているような時間はないのかもしれない。そう思ったら、足は自然と虹村さんの方へ向いていた。切り捨てる儀式のほうなものをしたかったのだと、僕は思う。けれど、その先に繋がる何かをみたかった、という気持ちが、なかったわけでもない。

虹村さんは、僕が「少しだけお時間いただけますか」と尋ねると、「ああ、かまわねーよ」と言った。いつもの制服に、リボンで作られた卒業生用の飾りをつけている。卒業証書の入った筒も手にしていた。この人はほんとうに卒業するんだと、思った。虹村さんは二人で少しだけ話がしたい、と僕が言うと、人通りのない、体育館の前まで僕をつれてきた。一緒に練習をした体育館だ。僕にとっては懐かしくもなんともない場所だったけれど、虹村さんはそこを懐かしそうに眺めていた。いつものように唇をとがらせている。その様子に、少しだけ笑みがこぼれた。そうしたら、虹村さんは「なんだよ、変な顔して」と言う。僕は「いえ」と言って、ごまかした。

「虹村さん」
「…なんかあれだな、面と向かってさん付けで呼ばれると…あれだな」
「虹村元主将とお呼びしましょうか?」
「いや、やめろ。さんでいい」
「そうですね。それも、そうです」

虹村さんは僕の様子に、少しばかり戸惑っているようだった。僕はゆっくりと瞼を落として、もう一度、目を開けた。そうして、ゆるりと彼を見据える。

「ご卒業、おめでとうございます」
「お、おう。面と向かって言われるとなんか照れるけどな。義務教育だし」
「まあ、そう言うのがならわしみたいなものですから」
「そういうのは言わねーのがふつうなんだけどな」

瞬きをする。瞬きの数がすこしだけいつもよりも多い。

「虹村さん」
「んー?」
「…好きです」

僕がそう言ったとき、虹村さんは少し驚いて、それから、当然のように、困った顔になった。頭の後ろをかしかしと掻いて、「あー」と要領を得ない声を出す。そうしてから、「悪いな」と言った。


「だって、俺を好きなのは、お前の方じゃないんだろ」


僕の愛したひとはたったひとりだ。大切なひとも、たったひとりだ。そして僕の大切な人は僕と同じ人を愛している。ずっと前からそうだった。ずっと前から。


ばいばい、すべて愛でした


END

title by 深爪

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