あなたがいないと眠れない企画実施中(ちいさん)






日高が始業の時間になっても大きなあくびをしていたら、寝ていないらしい伏見に舌打ちをくらい、榎本に小突かれ、なぜか弁財ににらまれた。普段は弁財ににらまれるようなことはないのに、と日高がよくよく弁財のご尊顔を見てみると、その両目の下にはくっきりと隈ができていて、「ああ、寝てないんすね」と。しかし妙だ。弁財は昨日定時にあがっていたし、なんなら秋山弁財部屋の明かりは早くに消えていた。別に日高は弁財に絶賛片思い中のあれこれで弁財をストーキングしているわけではもちろんない。ただ昨日夜更けにアレなかんじのDVDをレンタルビデオ店に借りにいって、そのとき秋山弁財組の部屋の明かりだけが消えていたから妙に印象に残っていただけだ。そのあたりから日高の妄想は大変な方向へ転がっていき、最終的に「弁財さんが非処女とかそんな事実があっていいわけない」と机に頭を打ち付けた。榎本にグーで殴られた。

午後に入ってから、弁財の顔色がいよいよあやしくなってきたので、日高は意を意を決して「弁財さん、俺秋山さんと弁財さんがそういう関係でもいいのであの俺のこともかまってくださ…いややっぱりいやだ!弁財さんの処女は俺がもらうんだ!」と思いながら、「弁財さん、大丈夫ですか?」と弁財になんとなく暖かい飲み物と蒸気でホットアイマスクを差し入れた。弁財はうつろになってきた目でそれを見て、「ああ、ありがとう」と受け取った。

「最近眠れなくて」
「そうなんですか?」
「ああ…なんだか四六時中誰かの視線を感じているような気がして。それに部屋にいても窓の外から視線を感じたり、カーテンを閉めても部屋の明かりの有無で生活リズムを探られているんじゃないかって思えてきてな…いや…もちろん自意識過剰なのはわかっているんだが、部屋のゴミ箱から自分が使ったストローとかそういうものが消えていたり、調べてもらったら部屋に盗聴器が仕掛けられていたりして…もしかしたら秋山のファンなのかもしれないが、とにかく気になって気になって…すまない、こんなところで愚痴る内容じゃないな」
「いやそんなことは…ていうか大変ですね。ストーカーじゃないですか?女性にもわりといるって聞きますし」
「うーん…秋山と部屋が一緒だから、どっちのストーカーなのかすらもつかめなくてな…。秋山は別に視線を感じてもなんともないし、気にせず生活しているんだが、俺の方はどうにも…そういうのが苦手で…」
「はあ…大変ですね」

日高は弁財にそんな不敬を働く輩がいるとは許しがたい、とないに等しい脳味噌をぐるぐる回転させて、「あ、じゃあこういうのどうですか」と弁財に提案した。

「今日、ゴッティーが遅番なんです。弁財さんは通常の勤務なので、俺んとこの部屋に泊まりにきたらどうですか?相手が部屋の監視してるなら、俺んとこは安全じゃないですか。外部の人なら寮内には入ってこれないですし、ちょっとは安心して眠れるんじゃないですかね」
「…でも迷惑じゃないか?」
「そんなことないですよ。むしろ俺、今晩暇なんで、話し相手になってもらえたらうれしいっす」
「そうか…じゃあ…お言葉に甘えて…」

弁財はほんとうに疲れているようだった。こないだから日高は弁財の部屋の中の様子がつかめず気になっていたこともあり、「むしろ俺も安心できますから」と笑ってみせたら、弁財はほんの少しだけ安心したような顔で日高に「ありがとう」と言った。日高はデスクに戻ってからも、なんとなく弁財を目で追いかけてみたり、見回りの時は怪しい人物がついてきていないかに気を配ってみたりしたが、特にそういった人は見受けられなかった。こないだだって、秋山弁財組の部屋にこっそりと忍び込んで弁財の使用済みストローを拝借したのだが、ちゃんとそれは残っていた。弁財の杞憂だといいのだけれど、と日高は溜息をつく。しかしながら心配だから、こないだその犯人のものと一緒に撤去されてしまったのだろう盗聴器もどうにかして仕掛けなおさなければいけないなあと日高は思った。ストーカーなんてものは社会のクズだ。プライバシーを侵害している。けれど自分の行為はそういった輩から弁財を守るためであって正当な行為だ。だって、弁財は日高がいないと安心して眠ることもできない。日高が、自分が、弁財が。



「ストーカーって、怖いっすね」
「…そうだな」
「おやすみなさい、弁財さん」


END


ちいさんへ
リクエストありがとうございました。

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