Hide and seek(相楽藤丸さん)






伏見が宗像の執務室に足を踏み入れた時、普段の整然とした雰囲気の他に、少しだけ甘いものを感じた。全体的に寒色で統一されたそこの中に、一部だけ赤があった。

「おや、気づきましたか?」

宗像は伏見の視線の先にあるそれをたどって、くすくすと笑った。宗像のデスクの上に、紅梅が二本活けてあったのだ。伏見はくだらない、というふうに溜息をつく。

「書類です。目を通しておいてください」
「淡島君が持ってきてくれたのですよ」
「話聞いてますか?」
「ええ。うつくしいでしょう、これは」
「聞いてないんですね」
「聞いてますとも。書類に目を通しておけばいいのでしょう」
「わかってるならそう返事してください」
「失礼。なかなかにいい紅梅でしたので、君にも自慢したくなりまして」

伏見は宗像に返却してもらわなくてはいけない書類もあったので、「先日お渡しした書類の件ですが」と切り出す。そうしたら宗像は「ああ、忘れていました」と答えた。

「締切が今日なのですが」
「今から確認しますから、ちょっと待っていてください」
「すぐにお願いします」
「すぐに終わりますよ」

伏見が苛立ちを隠しもせずにそう言うと、宗像は机の引き出しから例の書類を取り出した。書類がある場所は覚えているのか、と伏見は舌打ちをする。宗像はまつ毛の影を頬に落としながら、その書類に目を通していった。

「そう、そういえば伏見君」
「…なんでしょう」
「紅梅の花言葉は、高潔、だそうですよ」
「はぁ、そうですか」
「上品、忠実、忍耐という意味もあります」
「だからなんなんですか」
「なかなかに淡島君も粋なことをすると思いませんか」
「俺はそういうのにまったく興味がないのでわかりませんが」
「そうですか、それは残念」

宗像は確認すべきところを確認し、サインをして印を押すと、それを伏見に渡した。それから、「これも差し上げます」と、紅梅の二本のうちの一本も、書類につけた。

「いりません」
「そう言わず」
「そっこーで捨てますけど」
「受け取っていただければ結構です」

伏見は宗像が引き下がりそうにないのを見て、仕方なしにそれを受け取った。そうして、書類とまとめて小脇にかかえ、執務室を出るときになってから、「あんた、最低ですね」と吐いて捨てた。そのままバタンと扉が閉まってしまえば、それまでだ。宗像の「なんだ、くわしいじゃないですか」という小言も聞こえない。ここまでだ。


END


相楽藤丸さんへ
リクエストありがとうございました。


紅梅の花言葉:高潔、上品、忍耐、忠実、隠れた恋心

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