Very funny






息をしている青峰よりも、食事をしている青峰よりも、立っている青峰よりも、歩いている青峰よりも、バスケをしている青峰が好きだ。こわいくらい、好きだ。火神は青峰を見つめてみて、はじめて自分が怖いと思った。のどがからからに乾いているよりもずっと、なにかを欲していた。こわいくらい乾いていることに気づかされた。もっといろんなものが欲しいのに、それがなんなのか、わからない。ただ、端的に言えば青峰が欲しいと思った。けれど、青峰の何がほしいのか、青峰をどうほしいのか、青峰に何をしてほしいのか、それはさっぱりわからなかった。わからなくて、苦しかった。

青峰と火神はそれなりに連絡を取り合っていた。といっても、どちらかが暇なときにストバスに誘うくらいの付き合いだ。どちらかが暇だったとしても、どちらかが練習で忙しいことは多々ある。予定が合致するほうがめずらしかった。けれど火神はとある休日に青峰から「ストバス」とだけ書かれたメールを受け取って、少し考えてから、「ごめん、今日練習」と嘘をついて、家に引きこもった。

どうして自分がそんなくだらない嘘をついてしまったのか、火神にはわからなかった。別に青峰が嫌いだとか、体調が悪いだとか、そんなことはなかった。むしろ、どこかで体を動かしたいと思っていた。なのに、青峰の誘いを断ってしまった。これが黒子からの誘いだったら、確実にOKを出していた。どうして、どうして、と考えるたんびに、自分の中でぐるぐるとめぐっているなにかが外側にあふれ出してきそうな気がした。よくないことが蟠っているような気がした。火神はベッドの中で、ぐるぐると、「自分は青峰が嫌いなのか」と問いかけた。質問をしたのは自分で、答えるのももちろん自分だ。答えはもちろんNOだった。こういうときはイエスノーで答えられる簡単な質問を繰り返していると案外簡単に答えにたどり着くもんだ、とむかしアレックスが言っていたのだ。わからなければそれを分解して考えてみるのがいい、と。火神はかなり単純な性格をしていたので、言われたとおりに、今日どうして自分が青峰の誘いを断ったのかという事象をばらばらに分解していった。

「俺は体調が悪いか」
「NOだ」
「俺は何か予定があったか」
「NO」
「嘘をつく必要はあったか」
「NO」
「罪悪感はあるか」
「YES」
「俺が今日青峰に会うことでなにか不都合なことはあったか」
「…NO」
「じゃあなんで断った」
「わからない」

自分の行動と心情が、どこまでも合致しそうになかった。バスケをしている青峰が好きだ。そうじゃない青峰は、どうなんだ。思考はいつもそこでストップする。火神が考えることに疲れて、気分転換に洋楽をかけ始めたあたりになって、インターホンが鳴った。アメリカ育ちの火神はインターホンが鳴ってからすぐにドアを開けるような不用心なマネはしない。たいていどこかしらで相手の顔を恰好を確認したがる。けれどここは日本だ、という意識が働いていた。それに火神はこないだインターネットでラックを購入していたのだ。だからその配達だろうと思った。少し早いけれど、日本の郵便物は驚くほど速く届く。昨日頼んだものが今日届く、ということもままあった。だからよく確認もしなかった。そして「はーい」とありきたりに言って、ドアを開けた。ドアを開けたら、外にいた人物が突然押し入ってきて、火神を床に押し倒して、拘束した。何が起きたかわからない。一瞬意識がアメリカに戻って、「Don't be ridiculous!」と叫んでいた。腹とフローリングが仲良くしていて、頭もそこに押し付けられている。その掌の大きさに覚えがあったけれど、冷静でいられる状況ではなかったので、記憶の隅からそれを呼び出すことはできなかった。火神は自分で自分の体格をちゃんと把握している。アメリカではそこそこだったがしかし、日本では立派な方だ。筋肉もちゃんとついている。それなのにこんなに簡単に押し倒された。ありえない、と火神を押さえつける人物を振り返る前に、上の方から「くだんねー嘘ついてんじゃねえよ」という声と、「青峰君、今きみ何か手荒な真似をしませんでしたか」という機械的な音が降ってくる。聞きなれた声だったがしかし、それはプツンと途切れてしまう。通話が途絶えたらしい。火神は心臓の掴まれるような、すうっと熱が冷めるような心地がした。部屋からはアップテンポの洋楽が聞こえてくる。それに比例してやたら不機嫌そうな青峰が、「おい、こら、」と火神の頭を掴んでいる方の手に力を込めた。大きな掌だ。いつもバスケをしている掌だ。頭がおかしくなりそうだと、思った。青峰は「とりあえず日本語しゃべれ。ここは日本だ」とおどけたように言う。火神は「それ、面白くねーよ」と言った。青峰の目がぎらぎらと蛍光灯に光っている。尖った犬歯もそうだった。こいつは人間じゃない、と火神は思う。


「…Very funny.」


END


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