route munakata 10






伏見が目を覚ましたとき、そこはセプター4内にある特別医療機関だった。そして隣にはどうしてか日高が泣きそうな顔で突っ立っており、伏見は「…なんだ…?」とつぶやき、身体を起こそうとする。

「あっいやっ起きないでください!!まだ起きれるような体じゃないんでっ」

日高はそう言うとそっと伏見の身体をベッドに押し戻そうとするのだけれど、伏見はそうでなくてもがくんと肘が崩れるのがわかった。体にほとんど力がはいらない。のどは乾いていなかったが、恐ろしく空腹を感じる。自分はいったいどうしてこんなところに、と思い出そうとして、胃の痛みに眉をしかめた。そうしてからそうだそういえば、と思い出し、「俺、どうしたんだ…?」と困惑を隠せないまま日高に視線を向ける。日高は急に「はっ」とかしこまり、姿勢を正した。

「ほ、報告しますっ!現在の日付は6月24日です。伏見さんは6月21日の午後に特務隊の執務室で吐血し倒れているところを訓練から戻ってきた特務隊員…っていうか俺と道明寺さんと五島なんすけど…に、発見され、すぐにここに運び込まれたんです。原因はストレインによる飲食物への毒物混入。伏見さんのデスクにあったコーヒーですね。あれに遠隔操作で人体に悪影響を及ぼす物質を精製できるストレインが毒を混ぜたんです…。ストレインは捕縛完了し、拘置されてます。セプター4を狙ったテロだった模様で、ほかにも毒物が混入した飲食物が多数みつかりました」

そこからは細かいデータだったので日高の脳味噌が覚えきれているはずがなく、ところどころしどろもどろになったのだが、まとめると、今回の事件の被害者は全部で5人とのことだった。しかし伏見以外は皆軽傷で、腹痛や嘔吐程度のものだったらしい。重症は伏見だった。強い毒性を持った物質が胃の中に入り込んだせいで胃に穴があき、そのために吐血し、病院に運び込まれた。ほかの隊員は胃洗浄や抗生物質の投与ですんだのだが、伏見だけはどうにもならず、最後の手段で宗像が出てきた。ストレインの能力による毒ならば王の力で消すことができるのではという作戦だったのだがどうやらうまくいったらしい。

「あのコーヒー、誰がいれたか覚えはありますか?一応、その、いれた人とかを疑うわけじゃないんですけど、伏見さんだけがひどく重症でしたので…」

伏見は屈辱をかみしめながらも記憶をどうにかたどろうとした。たしかその日はいつものように秋山がコーヒーを入れて、しかしそのコーヒーはすべて飲んでしまったはずだ。飲もうとしてカラになっており舌打ちした記憶がある。昼前にもう一度秋山がコーヒーを持ってきたならそれは暖かいはずだがしかし、伏見が口をつけたそれは冷め切っていた。ならば誰が。

「…秋山とか榎本じゃないのは確かだ。…俺が…不注意で…あるはずがないもんくちにいれちまった…くそっ」
「え、あ、いや、そんなふうに思わなくても…」


日高は仕方がないというが、人体に有毒なものが含まれているものなんてそうそう味がかわないはずがないのだ。きっと変なにおいがしただとか、変な味がしただとか、まともな舌ならわかっていた。しかしそのときの伏見の舌はまともじゃなかった。だからあんなものを平気で飲み干してしまったのだ。そしてどうしてまともな舌じゃなかったかまで考えるともう吐き気で頭がおかしくなりそうだった。「自己管理もできないのですか」という宗像のセリフが耳に痛くて耳をそぎ落としてしまいたくなる。伏見は持ち上がらない手を握りしめて、舌打ちをした。耳が痛い。ずっとずっと、耳が痛かった。


END


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