にょたせぷ8






こんなのウソだ、と秋山は思った。秋山は今とても女性として大変なピンチに陥っている。ブラジャーのホックがはずされ、タイトなスカートはまくりあげられ、両腕は伏見によって拘束されてしまっている。

「クランズマンっつっても腕力はそこらの女と変わんないんですね。…っていうか秋山さん前々から思ってたんですけど胸ないですね、これ…男?」

伏見はもうまともな秋山が聞いたら号泣した挙句に伏見の股間を蹴り上げダモクレスダウンさせるようなことをのたまった。しかし恐慌状態に陥った秋山はもうどうしていいかわからずに口だけをぱくつかせている。伏見は秋山が抵抗できないでいるのをみると、「まぁいいか」と秋山の腕をはなし、のしかかったままシャツを脱いだ。そうすると伏見の体は細い細いとばかり思われていたがしかしきっちりと筋肉がついた男の人のからだをしていた。それを見た秋山はもう「い、いやだ気持ち悪いっ」とのたまい、這ってでも逃げようとするのだけれどしかし伏見がそれをしっかりと捕まえてしまう。

「…ちっ…あんたなんなんすか。そろそろこっちも傷つくんですけど」
「だって、だって、そんなごつごつのからだとかもう人類じゃないじゃないですか!!」
「言っときますけど俺そんなごつごつっつーほどごつごつしてないです。あんたの考えでいくとたいていの男は人類じゃなくなっちまうんですけど」
「だって男なんて人類じゃないですもんっ」
「いい年こいてもんとか言ってもかわいくないんすけど」
「ひどいっわたしもうやだもう帰りたいやだもうしにたい」

伏見はそろそろその萎えるセリフの連呼やめてくれないですかね、といわんばかりに秋山の口に指を突っ込んだ。そうすると秋山はもう男の指が口の中にはいってきたといわんばかりにさっと青ざめ、体をかたくした。

「ちょっとおとなしくしてもらっていいですかほんと」

伏見は秋山の耳元でそうすごんでみせると、そのまま秋山の耳をねっとりとなめた。秋山は必至に「これは女体化伏見さんの舌、これは女体化伏見さんの舌」と繰り返し頭の中でとなえるがなかなかうまくいかない。だって女体化伏見はこんなに腕力はないしかたくないしなんなら秋山が攻めだ。どうしてもこわくなってしまう。これだから男はいやなんだと秋山はあらんかぎりの力で伏見を押し返そうとするがしかしうまくいかない。伏見の舌は首のあたりにおりてきて、小さくリップ音をたてる。そうしてきつく吸い付かれたところで秋山の目からついにぼろぼろと涙がこぼれた。

「っ…う…う…っ」

はじめ伏見はそんなのかまうものかと秋山の服のしたから手をいれてあるのかないのかわからないなんなら男の胸のほうがまだなにかしら存在するのではないかという胸をさぐり、揉むというよりはなでていた。しかし秋山が本格的に嗚咽をこぼしてかたかたと震えはじめ、顔を真っ青にしているのを見て、舌打ちをした。

「あーもうなんなんすかあんたはっ」

伏見はぼすんと枕に八つ当たりをしてから秋山をするりと解放してしまった。秋山はとつぜん自由になったからだをそろそろと起こして、きょとんとしてしまう。

「え、あ、え」
「もういいです。なんか萎えました。べつにそういう趣味があるわけじゃないんで」
「えっと…」
「服直したらかえってくれていいです」
「あ、」
「なんです。いいからさっさと服直してください。ついでにその化粧ぐちゃぐちゃの顔面も直してください。ティッシュなら枕元です」

秋山はまだ少し恐怖と嫌悪感で体が縮こまってしまっていたがしかしどうにかこうにかブラジャーのホックをとめなおし、まくれあがっていたいろんなものをするすると直した。しかしずびずびと鼻はなっているし、涙もぼたぼたと落ちている。伏見もさっさとシャツに腕をとおしていたが、そんな様子の秋山を見てまた舌打ちをした。秋山はそれにびくりと肩をゆらす。

「俺のどかわいたんで」
「う、あ、はい…?」
「下のコンビニ行ってくるんですけどなんか飲みますか」
「え、あ」
「飲むかのまねーのか聞いてるんですよさっさと答えてください」
「あ、のみ、ます、はい」
「そうですか。じゃあ行ってきます。帰っててもいいですから」

そう言い残すと伏見は本当に財布だけ持って部屋を出て行ってしまった。ひとり取り残された秋山は、伏見のベッドの上で茫然とその広い背中を見送った。思っていたよりずっと広い背中を。


END


伏見ヘタレー

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