うつくしくはない(僉月さん)






ふたりで手をつなぐでもなく、よりそうでもなく、話すでもなく、ただ隣なような、となりでないような、そういう不思議な距離感で歩いている。道の先は薄暗く、はじめから少なかった人はどんどんと減っていく。最後にはふたりぼっちになる。きっとそんな関係なのだろうなぁと伏見は思っていた。宗像がどうかは知らない。宗像はただいつものようにうっすらとした笑みを浮かべている。この道の先がどこへつながっているのかを知っているような顔で、笑っている。

「室長」
「なんです」
「そろそろ別れませんか」

伏見は宗像と身体を重ねたあとには決まってそう言った。そこまでの一連がからだを重ねるうちに含まれているかのように、そう言った。だから宗像もいつものように「いやです」と言った。伏見もいつものように舌打ちをする。いつものやりとりだった。結局言ってみたみただけというのが伏見の本音だった。別れても別れなくても、きっと伏見と宗像はからだを重ねるし、どこへつながるともしれない道を二人で歩いていく。

「ねぇ伏見君」
「なんです」
「どうして君はそう私と別れたがるのです」
「…なんとなくです」
「そう、なんとなくというのはきっと本能なのでしょう。勘と言い換えることもできます」
「そういう小難しいのは面倒です」
「面倒ではないですよ、ずっと単純なところの話をしているのです」
「…そうですか」
「そうです」

伏見と宗像は同じベッドで朝を迎えたことはなかった。いつも伏見はやることを終えるとさっさと自分の部屋へ戻ってしまう。宗像も引き止めはしなかった。二人とも隣に人を置いて眠るのは苦手だったからだ。だから伏見にはわかってしまうし、宗像にもきっとわかっていた。ふたりで歩いていくにはこの組み合わせは相性がわるい。きっと寄り添ってもぬくもりはなく、つめたいからだと指先を重ねることもない。ふたりで歩いていても、きっとひとりだ。そしてもしかりに二人で目指す先へたどり着いたとしてもそれはとても寒くてさびしいところだ。ふたりともがわかっている。わかっているのにどうしてか、二人は離れられない。ずっとずっと離れられない。ずっとずっと、ふたりきりではなすでもなく手をつなぐでもなく寄り添うでもなく、歩いていく。冷たくて暗い、ふたりの道を。


END


僉月さんへ
リクエストありがとうございました。

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