Chapter 4 : three years ago 8.16






天使が空から落っこちてきたのかと思った。


加茂がはじめて道明寺にあったとき、道明寺は路地裏でぐったりとゴミのようになっていた。そこはお誂え向きにごみ捨て場で、加茂の働く飲食店のゴミを出す場所だった。加茂は黙ってゴミを捨てて、道明寺を拾った。


それももう一年も前のことになるのか、と加茂は五人分の夕食を少し古びた台所で作りながら、窓の外を見た。裏庭には紫陽花が咲いていて、季節柄少々くたびれているようだった。梅雨も明け、じっとりと蒸し暑い夏が到来していた。こんな古い家屋にはエアコンなんてものは存在せず、これまた年季のはいった扇風機だけが柔らかい風を送っていた。といってもこのあたりは街中に比べると随分涼しい。近くに川が流れているせいかもしれない。窓さえ開けていれば川に冷やされた涼風が家のなかを駆け抜けていく。夜は網戸をしめていてもどこからか虫が入ってくるので扇風機が必要になるが、そこまで蒸し暑い夜というのも珍しい。東京であって東京でない場所が、この家だった。

今晩の夕食は特にひねりもなく、揚げ出し豆腐と、煮物と、焼き魚と豆腐の味噌汁と白米だった。仕事がないときは加茂が夕飯をつくる。加茂が仕事に出ているときはたいてい秋山か弁財が台所に立っていた。楠原だけは絶対に台所にたたせてはいけないと暗黙の了解があった。楠原はおいしく食べることに関しては天才だが、おいしく作ることに関してはその逆だった。悪意のない笑顔で差し出される一瞬見ただけで美味しくないとわかる料理の数々を思い出し、加茂はため息をついた。

料理が出来上がったところで加茂は茶の間に視線をやった。すると、それに気づいた道明寺が「晩飯できた?」と首を傾げる。加茂が頷くと、道明寺が「晩飯できたってよ」と秋山と弁財、楠原を呼びにいった。いつもの風景だ。加茂はごはんをよそりながら、一年前までは自分がこんなふうになっているだなんて予想もしていなかったなぁと、ひっそり、わらった。



加茂が道明寺を拾った時にまずしたことは、飯を食わせることだった。道明寺はひどく痩せていて、熱があった。ほんとうは病院に連れていかなければいけないのだろうが、そのとき道明寺が保険証を持っているかどうかはあやしく、また、加茂はうまく状況を説明できそうになかった。しかたなく自分のアパートに連れ帰り、ベッドに寝かせて、雑炊を作った。道明寺は加茂が食事を作っている間に目覚め、「ここどこ?」とぶしつけに首をかしげた。加茂は黙っている。ただしくは、黙っていることしかできなかった。


加茂劉芳は声を出すことができない。


それはあっけにとられてだとか、風邪を引いていて、だとか、そういう意味合いでは決してなかった。そして生まれたときからそうかというと、そうでもなかった。加茂は昔はそれなりに会話を楽しむということをしていたし、人との意思疎通はきちんと当たり前に会話によって行っていた。加茂の声が出なくなったのがいつからなのか、加茂にすら正確にはわからない。ゆっくりと、段階的に出なくなっていったのか、それともある日突然出なくなっていたのかも、わからなかった。その頃の加茂は仕事はしていたけれど、必ずしも声がでなければどうにもならないという仕事ではなく、ただ料理をうまく作ることができればいい職業だった。だからそのことに気づいた頃にオーナーに筆談でそれを伝えた。オーナーは少しばかり心配そうな顔になったが、「まぁそういうこともあるさ」と軽く受け流していた。だから加茂もそんなに深刻に考えたことはなかった。別段誰と話したいだとか、何かどうしても伝えたいというものを、加茂は持ち合わせていなかったからだ。


もしもこの世界に神様なんてけったいなものが存在するのなら、神様はきっと加茂には声がいらないのだと判断したのだろう。加茂は昔からなにかと言葉を飲み込む癖があった。それは加茂が言わずとも誰かが言ってくれる言葉であったり、あえて言うほどでもないだろうという言葉たちだったりした。けれど、会話というものは大抵そういう言葉があつまって成り立っている。だから、そういう会話を億劫がる加茂から、神様は言葉そのものを取り上げたらしかった。

加茂が声を出そうとしても、喉にぴったりと蓋がされたようになって、吐息くらいしかこぼれてこない。一度病院にも行ってみたのだが、「ストレスですね」としか言われなかった。加茂はとくに思い当たるストレスもなかったので、病院へはその一度いったっきりだ。そのあとはもう声が出ないことが日常になり、当たり前になり、加茂は少しずつ、周りを遠ざけるようになった。それでよかった。なんだか、違うような気がしていたのだ。その時の職場になにか不満があったかというと、特にそういうわけではなかった。ただ、なんとなく、ここは自分がいるべき場所ではないのだろうと、思っていた。特に根拠があるわけでもなく、ただ、なんとなくそうだったのだ。


加茂は久々に誰かに何かを的確に伝えなければいけないという事態に少々困惑してしまっていた。ベッドの上に起き上がった道明寺はキョロキョロと加茂の部屋を見渡し、そこが見知らぬ部屋であることを確認していた。そうしてから、むっつりと黙ったままの加茂をじっとみつめる。

加茂はほんとうに綺麗な顔をした男だなぁと、思った。背格好は明らかに高校生だったが、目鼻立ちが少し日本人らしくない。瞳の色はグリーンだし、髪の毛は染めてる風でもなかったが、色素が薄い。

「あんた、声でねぇの」

あとから聞いた話、このときの道明寺はそう確信していたわけではなく、ただからかったつもりでそう言ったらしかった。しかし加茂は「ああ、手間が省けたな」と思いながら、頷いた。道明寺は少しだけ驚いた顔になり、「ふうん」と少し俯いた。

道明寺は加茂が言葉を話せないとわかると、自己紹介もせず、拾ってもらった礼も言わず、「ここあんたの家?」だとか「俺のこと拾ってきたの?」だとか、イエスかノーで答えられる質問を投げてきた。加茂は遠慮を知らない奴だなぁと思いながら、その質問たちに大抵頷き、違うものには首を振った。加茂が首を振った内容の質問は「あんたゲイなの?」と「警察に連絡した?」だったが。

加茂は雑炊ができると、器に盛って、道明寺に渡した。道明寺は少し困ったような顔になったが、空腹を覚えていたのか、そろそろとそれに口をつけた。さすがに「毒入ってる?」とは聞いてこなかった。

道明寺は一口二口それを口に含んでから、「美味しい」とも「不味い」とも言わず、ただ、諦めたようなため息をつき、それから、少し切なそうな顔になった。

「なんか、こういうあったかいもの食べたの久々かもしれない」

それが、道明寺が唯一口にした感想だった。


食事が終わって、加茂が後片付けをはじめた背中に、道明寺はぽつりぽつりと話しかけた。自分の名前と、年齢と、家出少年であるという旨だ。別に返事を求めていないらしかったので加茂も聞いているだけだった。道明寺は、いくつか必要そうな情報を加茂に与えると、「で、どうすんの」と加茂に尋ねた。加茂は「どういう意味だ?」と首をかしげてみせる。道明寺は少し困惑した表情になった。

「いや、普通家出少年拾ったら警察に届けるなり、親に連絡とらせるなりするだろ」

加茂は洗い物をしながら、少し考えた。そういうことをわざわざ言ってくるということは少なからずそうしてほしいという願望があるのだろうか。しかし加茂は警察にも道明寺の親にも電話をかけることができない。交番へ行くのも面倒だ。道明寺も言ってしまってからそれに気づいたらしく「あ、そっか」とつぶやいた。

「なんか俺、すげー都合のいい人に拾われたんだな」

道明寺が妙に感動した声でそう言った。そういえば、道明寺という男は感情がすぐ言葉に出る。いい意味でも悪い意味でも自分に正直なのだろう。加茂は昔の自分もこんなに感情に染まった声を出していたときがあっただろうかと少し思いをめぐらし、すぐにやめた。考えてもしょうがないことだったからだ。


道明寺はその後しばらく、加茂の部屋に居座った。加茂は翌日仕事へ行き、帰ってきたら道明寺はいなくなっているだろうと踏んでいたのだが、どうにも予想が外れてしまった。道明寺はまだ熱が残っているのか、毛布にくるまり、加茂のベッドを占領したままだった。そして、熱が下がってからはちまちまと部屋を片付けたり、洗濯物をどうにかしたり、恩返しのようなことをはじめてしまった。どうやら本気で加茂の部屋へ居ついてしまう魂胆らしい。

「そういえば、俺、あんたの名前知らない」
「…」
「紙に書くなりしてさ、教えてよ。いつまでもあんたとかおにーさんとか呼ぶのもよそよそしいだろ」

よそよそしいまま出て行ってくれたならいいのになぁと思いながら、加茂はそこらへんの紙をひっぱってきて、そこに「加茂劉芳」と書いた。道明寺は馬鹿だったらしく首をかしげて、「読めない」と。加茂はため息をついてそこに「かもりゅうほう」とフリガナを足した。

「カモ?リュウホウ?変な名前」

加茂は道明寺アンディの方がずっと変な名前だけどな、とつぶやこうとして、吐息だけ漏らした。そうして、そうしてしまった自分に、驚いた。なんとなく言葉を発してしまいそうになるだなんてことは、久々だったからだ。


道明寺は本当に家出少年らしかったが、色々と事情がありそうだった。そういうことに首を突っ込む気はなかったが、警察に訪ねてこられたら面倒だなぁと思った。親がちゃんと捜索願を出していればの話だったが。

加茂はとくに道明寺を追い出したいとは思わなかった。ずけずけとものを言うわりに、体調が良くなってからは加茂にベッドを譲ったし、加茂がいないあいだに拙いながらも家事をこなしていた。彼なりの恩返しと家賃のつもりなのだろう。そういうところがなんだか憎めない。人とこんなに長い時間一緒にいるというのは久々で新鮮だった。会話(加茂は頷いたり首を振ったりするだけだが)に満ちた生活というのも久々だった。道明寺は人の仕草に敏感なたちらしく、加茂の意思を丁寧に汲み取り、ひとりでに会話を膨らませていく。加茂が思っていることを紙に書かずとも汲み取ってくれるので、加茂が何か特別に気を使うことはなかった。なにかそういう、水商売というと聞こえは悪いが、接客業のような仕事の才能があるのかもしれない。

加茂がひとつ、道明寺に文句があったとすれば、それは食事についてだ。

加茂は料理人であるからして、料理にはそれなりに自信があった。加茂が料理を振舞った人は必ずといっていいほど「おいしい」と言ってくれる程度には、うまい。それなのに道明寺は加茂が飯を作って振舞っても、特に感想を述べなかった。前に一度、「それはおいしいのか?おいしくないのか?」と首を傾げるような感想を述べたっきりだ。

加茂はそんな小さなことに目くじらを立てたくはなかったが、何か一言くらいあってもいいんじゃないか、とは思っていた。味付けが好みと違うのだろうか、嫌いな食べ物があるのだろうか、と加茂は首を傾げるのだけれど、道明寺は料理に関してのみ、なにも喋らなかった。それは不思議なくらい、そうだった。

だから加茂はなんとなく、色々な料理を作ってみた。和洋中試してみたり、味付けを変えてみたり、少し凝ってみたりした。食材もそこらのスーパーに売っているものはだいたい試してみた。おかげで料理のレパートリーが大幅に増えた。加茂が購入した料理本が2冊を数える頃になっても、道明寺は普段と変わらず、するすると箸を動かすだけだったが。


加茂は仕事に出かける前になんとなく道明寺にお昼ご飯を作っていく。道明寺はほうっておくと食事をとらないし、自分で作ろうとはしなかった。ものぐさなのだろうと加茂はぶつくさ考えながらも、また身体を壊されてはたまらないと毎朝昼のぶんも作ってしまう。けれど、その日は加茂がめずらしく寝坊してしまい、朝はばたばたしてしまった。そのせいで加茂は作ったはいいが朝飯を食べる時間がなく、しかたなく道明寺にだけそれを残し、家を出た。

仕事を終えて帰ってきてみると、鍋のなかに入れておいたスープはそれなりに減っていて、道明寺はいつもどおりソファでくつろいでいた。夕飯のぶんもしっかり残っていたので、夕飯はこれでいいだろうと加茂はそれを温めなおす。そういえば味見もしていなかったなぁと何気なくそれを一口、お玉で掬って食べてみた。


夕食の席で、加茂はなんだかいたたまれなさを感じていた。道明寺はなんてことない顔をして、そのスープを食べている。加茂は、道明寺に聞かなければいけないことがあった。けれど、加茂が何かを伝えようとしたときには必ず紙とペンが必要になってくる。そうして、それを使ってしまうと、何気なく済ませてしまいたい会話も、なんだか重々しい筆跡でもってずっと不味いものになってしまう気がした。声のニュアンスだとか、視線の方向だとか、そういう細かいもので補うことが、加茂にはできない。とても不便だと思った。

「あのさ、言いたいことあるなら言えば?」

加茂の様子を見た道明寺が、尋常でなく不味いスープを口に運びながら、眉ひとつ動かさずにそう尋ねた。尋ねてから、気まずそうな顔になる。

加茂は、このスープの味付けを変えて、もっとずっとましなものにすることもできた。けれど、ちゃんと確かめておきたくて、この苦いスープをそのまま、夕食にだしたのだ。加茂がこんなものを食べていたらじりじりと眉間に皺が寄り、最終的にはトイレに駆け込むかもしれない。そこらの小学生なら泣き出してしまうかもしれなかった。

道明寺には多分、味覚がない。

それは、料理人である加茂からしたら絶望的なことだった。加茂がこれまでに様々なおいしい料理を出してやっても道明寺が無反応だったことも、これで辻褄があう。けれど、その事実は同時に、道明寺が誰もが体験できる、料理によって自然と笑顔になるという幸せな体験を経験していないという裏付けになり、それはなんだかとてもかわいそうに思えた。

加茂が、どうしたものかとスープをじっと見つめていると、道明寺が、ガタンと派手な音を立てて、立ち上がった。

「…やめろよ」

テーブルに押し付けられた道明寺の二本の腕は怒りなのか、悲しみなのか、とにかく小さく震えていた。加茂はしまったと思ったが、弁明する時間も、そうする方法も、なかった。引き止めるまもなく、道明寺は出て行ってしまったのだ。


道明寺が出て行った部屋は、随分、広かった。道明寺は基本的にものを持ち込んでいなかったし、男なのでとくに必要なものも少なかったらしかった。下着やら服やらはコンビニで買ったり、加茂が貸していたりした。だから、道明寺のものがなくなったからこの部屋が広くなったというわけでは、決してない。加茂は道明寺が出て行ってしまったあとに、不味いスープを全部流しに捨ててしまった。こんなものを自分が作らなければ、道明寺はもう少しこの部屋に居てくれたのだろうか、と。そう思ってから、ひとつ、わらった。こんなスープを作ってしまったとしても、もっと、加茂に意思や思っていることを伝える言葉や、弁明するための言葉があれば、こんな結果には、ならなかったかもしれなかったからだ。久々に、不便だと思った。言葉がないことは、味覚がないことと同じくらい、かわいそうなことだと、思った。


加茂と道明寺が一緒に暮らしていたのは一ヶ月程度だった。だから、一ヶ月くらい一人で過ごしていれば、自然と身体がもとの状態に戻ってくれるのではないだろうかと、加茂は考えていた。けれどそれは甘かったらしく、加茂は気を抜くと一人分にしては多い量の食事を作ってしまっていたし、洗濯物もためてしまっていた。そしてなにより、ぽっかりとひとりぶん、隙間が空いてしまっていた。


「ただいまとかは言わねーからな」

道明寺はちょうど出て行ってから一ヶ月後の朝に、加茂のアパートを訪れた。加茂は、驚いて、もとから出なかった声を、さらに詰まらせた。道明寺は現れるのも唐突だったが、言動も突飛だった。

「引っ越そう」

そう言ったのだ。加茂はあっけにとられてしまって、とにかくなんらかの説明が欲しいと、身振り手振りで道明寺にそれを求めた。


道明寺は加茂の家を出て行ってから、ふらふらと当て所なく街中を歩いていたらしい。そこで隘路に迷い込んでしまい、どうしたものかと悩んでいるときに、甚平姿のなんとも珍妙な青年に声をかけられたのだそうだ。「お困りですか」と。道明寺が行くあてがないことを伝えると、「じゃあうちに下宿したらどうですか。部屋が余ってるんです。他にも下宿してる方が二人いますし、家賃はいりません。食事とか生活用品のぶんだけは割り勘で出してもらうことになりますが」と首をかしげた。道明寺には是非もない話であったので、すぐさまそこに入居を決めたとのことだった。加茂はそこまで聞いて、「もっとよく考えて行動しろ!何か怪しい犯罪に巻き込まれたらどうするんだ!」と怒鳴りたくなった。もちろん眉間の皺を揉むことくらいしかできないのだが。

「その家がさ、すげー古いんだけど、なんか、すごく、いいところなんだ。すごく。よくわからないけど」

道明寺は定位置だったソファの上に腰掛けて、窓の外を見た。加茂は今日は休みだった。今日、というか、二日ほど前からお盆休みだった。忙しさにかまけてカレンダーをめくることを忘れてしまっていたが、八月ももう半ばで、都内では熱中症でばたばたと人が倒れている。

「だから、引っ越そう」

道明寺は馬鹿だから接続詞の使い方がなっていなかった。いや正しいのかもしれないが、少々突飛すぎた。けれど、加茂の声も突飛に出てこなくなったし、道明寺も突飛に現れたし、突飛にいなくなったし、突飛に戻ってきた。だから、もう一つくらい突飛が増えてしまったところで、いいんじゃないかなぁとも、思った。

「あそこの下宿、家賃ないし金はかかんないんだけどさ、住んでるのが落ちぶれた小説家と、もの食わねぇ書道家と、わけわかんねぇ幽霊と、…味覚障害な俺だから、飯が冷たいんだ」

道明寺がこんなに遠まわしな言い方をするのも、めずらしいなぁと加茂は思った。もっとずけずけと、わかりやすい物言いをするやつだと思っていた。けれど、なんとなく道明寺の表情から「ああ、照れてるのか」とわかった。だって、その言葉をまっすぐに正してしまったなら、愛の告白になってしまう。いつか道明寺が加茂に「あんたゲイなの?」と聞いてきたが、その言葉をそのまま返してやろうかと思った。けれど、できそうになかったので、加茂はため息をついてから、「いいだろう」と唇を動かした。ずっと、練習していたのだ。ずっと、もっとうまくものを伝えられるように、言葉にできるように、練習していた。だから、加茂は道明寺の耳元に唇を寄せて、やっと吐息の雰囲気で感じ取れるようなかたちで、「そこで一緒に暮らそう」と言った。そこで一緒に、生きていこう。


八月の、ずっと暑い日のことだった。ちょうど、一年前だ。加茂はご飯をよそりながら、そのことを思い出したのだ。あたたかいご飯を、よそりながら。


End

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