大人のふりをするのも大変なんだよ






「ごってぃー今日からお酒飲めるな!」

日高がそう言ってキンキンに冷えているらしい500缶のビールを二本取り出したとき、五島はまるで今まで自分が酒の味を知らないみたいに思ってるらしいなぁと思った。日高だって法律で許される前に酒の味を知っているだろうに、時間がたつとそういう当たり前のいけないことを忘れてしまうらしい。そうして自分も許された気になっているのかもしれない。五島は手のひらできゅんとする銀色の缶を受け取りながら、「煙草も吸えるね」と口元を緩めた。

「煙草はやんねーよ?」
「日高がくれなくてもコンビニで買えるから」
「そうだけどよくねーよ」
「日高はよくて僕はだめなの?」
「うーん・・・いや、すすめはしねーぞってことだって」

それから日高はとにかく、と二人だけなのに乾杯をした。そうしてから、「煙草なんてよくねーぞ」とお金がかかるとか健康問題だとかイメージの問題だとかをつらつらと話しはじめた。五島がなんで日高はこんなにわけのわからないことを並べ立てているのだろうと思ったので「じゃあ日高もやめれば」と言った。そうすると途端に日高は苦い顔になって、「いや、でも、ほら」と言った。五島は自分も二年後にはこんな情けない大人にならなければいけないのかなぁと思ったけれど、たぶんこうはならない気もうすうすしていた。日高に止められるでもなく煙草は匂いが嫌いだしまずもって存在理由がわからなかったので。けれど煙草を吸う日高はなんとなく恰好がついているとは思っている。そんなものだ。

なんだか今日の日高はやたら先輩ぶっている。いや実際年上なのだから先輩ではあるのだけれど、なんだか五島を何も知らない高校生のように扱ってくる。ひどいはなしだ。酒の味も煙草の味も、なんならだらしない性の経験もあるのに何も知らないと思い込んでいる。だから五島はなんにも知らないような顔をしないといけなかった。ビールを苦いと言わなければいけなかったし、日高の吸う煙草をちらりと見てみなければいけなかった。だってこうすれば機嫌がよくなるんでしょうという顔は微塵もしてはいけない。そういうきまりだった。

「ゴッティー」
「なに」
「次何飲む?ビールと焼酎とウイスキーはある」
「・・・軽いのないの」
「割ればどうにかなるかなー」

日高はがさごそと冷蔵庫をあけて、それから、すこし考える素振りをした。そうしてから「まぁもう今更だよなぁ」と呟いて、五島の前にビールを置いた。五島がビールを好んでいると、ちゃんと知っていたからだ。


END


愛羅さんへ
リクエストありがとうございました。

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