君に焦がれて60億年
恐竜は絶滅した。地学の授業で、だいたい六十億年ぶんくらいある地球の生命の歴史を、たった二時間でさらったあとに、なんだか真琴は漠然とした気持ちになった。恐竜は絶滅した。隕石が地球に衝突したり、気候が変わったり、たべるものがなくなってしまったり、理由はいくつか予測できるらしいけれど、とにかく恐竜は絶滅したらしい。そういう事実をあらためて見つめてみる作業は、愉快ではなかった。遙はなんだかぼんやりしながら、「最後の一匹は」と呟いた。
「最後の一匹はどんなきもちで死んでいったんだろう」
寒かっただろうか、暑かっただろうか。食べるものもなくて、ひもじくて、辛くて、慰めあう仲間もばたばたと死んでいって、とうとうだれもいなくなって、どんなきもちで死んでいったのだろう。遙の考えていることはぐるぐると渦をまいていて、真琴にもあまりよくはわからなかった。けれど真琴も、きっとその恐竜はこわいくらいいろんなものに餓えて死んでいったんだろうなぁと思った。愛情とか、友情とか、食べるものとか、心地よい住み処とか、そういうものに、それこそ死ぬほど焦がれていたのだろうか。それはただ生きてあたりまえに死んでしまうことよりもずっと苦しくて辛くて、こわいことだと思った。とても、こわいことだ。
「…お前も、」
遙はまだぼんやりと渦を巻く目で真琴を見た。真琴はあ、いけない、と思ったけれど、声は出なかった。あ、と掠れた吐息だけが吹き抜ける。
「最後の一匹なのか」
とても、こわい。
END