どうしてわかってくれないの






「男の子ってどうしてわかってくれないの」

江はもう疲れた、というふうに肩を落とした。渚は「どうしたの、ごうちゃん」と首を傾げる。すると江は「それよ、それ」と渚に向かってきりきりと憤った声を出す。びしりと指をさされて、渚は少したじろいだ。人を指さしちゃいけません、というお決まりの文句が出てこないくらいには、少し、たじろいだ。

「女の子はかわいくなくちゃいけないの!かわいい名前のほうがいいの!わたしはいやなの!そうやって可愛くない男みたいな名前で呼ばれるの!恥ずかしいの!」
「そうなの?」

渚がそんなの誰が言ったんだろうなぁと思いながら首をかしげてみせると、江は渚にむけていた人差し指をやっとしまい、「そうなの!」と、なにが誇らしいのかわからないけれど腰に手をあてた。そんな決まりがなくったってかわいい子はかわいいし、かわいくない子はかわいくないのに、女の子という生き物はどうしてか「かわいい」ということに妙なこだわりを持っている。どういう基準で「かわいい」のか、渚にはわからなかったけれど、江的には「ごう」は可愛くなくて、「こう」はまだかわいい範囲らしい。よくわからないなぁと、渚は思った。

「でも僕はごうちゃんって名前好きだよ」
「わたしは嫌いなの!」

渚は江の頭から湯気が出そうだなぁと思って、へらりと笑った。それがまた気に食わなかったのか、江は肩を落として、諦めたような面持ちになり、「もういい」と渚に背を向けた。そうして、本日二度目の「男の子ってどうしてわかってくれないの」という台詞をぽそぽそと呟く。渚もああちょっとやりすぎちゃったかな、と思い、「そんなに怒らないでよ」と江の袖を引く。江は「反省してないのにそんなこと言わないで」とぴしゃり。

「だって、ごうちゃ・・・」
「もう!こうだって言ってるでしょ!」
「わ、こわいよ!かわいくないよ!」
「だれのせいだと思ってるの!」

渚は「僕のせいかなー」ととぼけてみせる。江は憤然やるかたなしといった顔をして、もっていた通学用バックで渚を叩いた。「痛い!」と少しほんとうの声が出ると、ぎくりとした様子の江が「悪いのはそっちだからね!」と。ばらばらとかわいい女の子の化けの皮が剥がれてしまっている。渚はちょっとそれを笑ってから、「ごめんってばー」とかわいい声をだした。それがまた皮肉めいて見えたのか、江は「もう、こっちこないでよ!」とさらにきりきりした声を出す。

「だってこのあと部活だし。一緒じゃん」
「・・・そうだけど・・・もう、そうやって人の揚げ足とるのやめてよね!」
「もーそんなに怒んなくてもいいじゃん」
「怒らせてるのはそっちなの!もう!どうして男の子ってわかってくれないの!」

まるで女の子は男の子のことなんでもわかってるみたいな口ぶりだなぁと渚は思ったけれど、ふぅと一息ついて、「ごめんね。一緒に部活行こう」と、少しだけ落ち着いた声で言った。女の子はどうしてこうわかってくれないのかなぁと思いながら。



END


やなはさんへ捧ぐ。
なぎごうちょうかわいい。
まこあまください。

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