秋山と弁財
※秋山と弁財が元ヤン
秋山は珍しく徹夜二日目だった。締切の近い計画書やら企画書やら報告書やらの締切が微妙な間隔を保って最近に集中してしまっていたせいらしかったが、弁財は日に日に目つきの悪くなっていく秋山を心配そうに見ていた。あまり家にも帰っていないせいで強制禁煙中になってしまっていて、ずっと栄養剤のストローをくわえている。普段は絶対にそんなことをしないので、かなり精神的にきているのだろう。
「秋山…少し休んだほうがいいんじゃないか?」
「…いや、ちょっと今ほんとうに修羅場だから…これ終わったら少し仮眠する」
「そうか…ストローくわえるのはやめたほうがいい」
「え、あ、気づかなかった…」
秋山ははたと気がついてそれを口から外してゴミ箱に捨てた。そうしてまたパソコンに向き直り、少し猫背気味になって仕事を再開する。目つきが悪いし貧乏ゆすりの頻度も高くなっていて、これは重症だ、と弁財は溜息をついた。
「…チッ…使えねーな…」
オフィスにいた面々はその声を聴いて、「ああ、また伏見さんか」と思ったのだが、なにかおかしい。伏見は今宗像に呼び出されて執務室へ向かっているはずだった。じゃあ誰だ、道明寺か、と道明寺を見るのだけれど、道明寺は「俺じゃない」というふうに首を振る。弁財が言うはずもないし、加茂の声でもない。まさか榎本なわけはないし、布施かとも思ったがどうやら違うらしい。五島はんふんふ言っているだけだし、日高は馬鹿だから言われる側だ。弁財はその台詞がなんだか自分の隣から聞こえてきたような気がして、秋山を見るのだが、そこには伏見かと見紛うほど眉間に皺を寄せて目つきを悪くしている秋山がいた。
「…おい、秋山」
「え、なに?」
「さっき何か言わなかったか」
「え?いや、日高の担当してた書類のミス見つけて、んだよこいつ使えねーなふざけんなまじでぶっ殺してやろうかって思ってたけど多分口には出してないよ」
秋山はなんてことないようにいつもの穏やかな顔でそう言い放ったものだから弁財は戦慄した。
「今口に出したろう!おい!仕事は俺がすすめとくからとにかく寝ろ!伏見さんになってるぞお前!」
「俺が伏見さんになれたらこんな仕事もうとっくの昔に終わってるよ」
「いいから!とにかく!仮眠室へ行け!日高がもう息をしていないから!」
見ると日高はもう失神してしまいそうに青ざめ、普段温厚で人がよく面倒見もいい秋山にそこまで言わせてしまったことにぷるぷると震えていた。弁財はとにかく、と仕事の引き継ぎをして、秋山を仮眠室に放り込んでしまった。
一時間後に秋山は起きだしてきたのだけれど、そうするともうすっかり毒が抜けたようになっていて、「え?なに?なんで日高俺見てそんな怯えてるの?」と首をかしげるばかりだった。
END