秋山と伏見
「秋山ってさ、煙草吸うの?」
「え、あ、いや、匂いますか?」
秋山は慌てて袖のあたりの匂いを嗅いでみるのだけれど、消臭剤の匂いしかしてくれない。
「服とかじゃなくて、左手から、少し」
秋山は左手で煙草を吸う癖があるので、ああ、と諦めたような顔になった。
「…伏見さん、鼻効くんですね」
「いや、口からでまかせ。やっぱ吸うんだな。お前匂いとか気にしそうだから、利き手じゃ吸わねーだろと思って」
「…意地悪しないでください」
「自分より年上の男に意地悪とか言われても気持ちわりぃよ」
「はぁ…すみません」
秋山は決まりが悪い顔になってしまった。弁財のこともあるし、これを機会に禁煙してしまおうか。
「俺、わりと好きだけどな。煙草の匂い」
「え、」
「俺は吸わねーけど、匂いは、わりと好き」
「はぁ、そう、ですか」
「なんだよ」
「いえ、」
先程の決心がもうすでにぐらぐらと揺れてしまっていて、秋山はどうしたものかと思った。こういうときも煙草が欲しくなってしまっていけない。そろそろヘビースモーカーに片足を突っ込んでしまっているようで、溜息が出た。
END