四十四日目





「緑間、おかわり!」
「お前は少し遠慮という言葉を知るべきなのだよ…」

火神がキセキハウスに来るということで急遽生活用品やらの買い出しと一緒に食料の買い出しも行った。火神の大食いは周知であったし、現在冷蔵庫の中に入っているものだけでは心もとなかった。緑間はいつもよりずっとたくさん夕食を作ったのだが、それがどんどんと火神の胃袋におさまってゆくのを見て呆れたような溜息をついた。

「ていうか、お前料理作れんだな。ふつーにうめーし」
「お前に作れるものがなぜ俺に作れないと思うのかかが不思議なのだよ」
「なんだ、それ」
「言葉どおりの意味だ」

緑間は白米をさっさと火神の丼に盛り、手渡した。

「それにしてもすげーよな、この家。広いし、デカイし、綺麗だし」

火神は関心したように言う。アメリカで火神は一人暮らしなので、広い部屋というものが珍しいらしい。

「赤司君が用意してくれたんですよ。みんな同じ大学なので。それで、掃除とかは一応割り振っているんですが、よく緑間君が気を回してくれているんです」
「なんだ、意外に家事できんだな、緑間。俺お前のこと生活能力ゼロだと思ってたわ」
「お前はもっとオブラートに包んだ物言いというものができないのか」
「いや、それは申し訳ねーけど…。ていうか、なんか久しぶりだな、こうやって大勢で食卓囲むの。俺一人暮らしだし、友達とはわりと外食するけど、こうやって家でっていうのはほんと久々なんだよな」

火神がそう言うと、青峰が「そうかよ。面倒ばっかだぜ」と。

「牛乳は口つけて飲むなだとか、皿は自分で洗えだとか」
「…青峰っち…そこはわりと当たり前のとこなんじゃ…。俺はわりと楽しいっすよ、共同生活。賑やかで」
「お前はうるさすぎるのだよ」
「ひどい!」

三人がぎゃあぎゃあ言っていると、火神はすこし羨ましそうな顔でそれを見た。黒子はなんだか複雑な気持ちになってしまい、もそもそと箸を動かす。赤司はいつもよりなんだか静かだし、紫原もそうだった。それがなんだか少し気まずい。このふたりはあまり火神と面識がないせいかもしれないが、こないだ緑間が高尾を家に入れたときの反応から察するに、どうにもこの家に六人以外の人間が入るのをあまりいいと思っていないようだった。黒子はどうしたものか、と溜息をつき、食事が終わったら火神は自分の部屋へ連れていってしまったほうがいいかもしれないと思った。

夕食の後片付けが終わると、赤司は課題があるから、と言って部屋へこもってしまい、紫原もレポートがあるらしく、同じようにした。緑間はいつも課題に追われているし、黄瀬は今度出るCMの台本を読み込まなければいけないらしかった。青峰は疲れたからもう寝ると部屋に入り、黒子が火神を部屋へ連れて行くでもなく、リビングにはふたりしか残らなかった。

「なんか、あれだな、わりとバラバラな生活してんのな」
「…普段はそうでもないんですけどね。多分、何かしら気を遣ってくれたんだと思います」
「そっか…なんか悪いことしたな」

火神は気まずそうに頭をかいた。

「そうでもないですよ。閉鎖的な空間は温かいですけれど、たまには風を入れてあげないと眠くなってしまうじゃないですか」
「…ごめん、難しい」
「火神君はわからなくて、いいです」
「なんだよ、それ」

普段風呂は大抵緑間が一番に入って、そのあとはわりと適当だったり、まとまって入ったりしているのだけれど、今日は黒子と火神が一緒に入った。風呂の広さに火神がはしゃいで、それがなんだか可愛らしい。火神は長時間飛行機に揺さぶられ、さらに時差ボケがあったので風呂から上がるとまだ早い時間だったが瞼を擦り始めた。黒子も練習で疲れていたので、まぁたまにはこんなのもいいか、と寝る準備をはじめてしまう。

黒子はベッドのマットレスの上に敷布団を重ねて使用していたので、今晩はその敷布団を床にしき、マットレスにシーツをかぶせた。少し寝心地は悪くなるが、背に腹は変えられない。もうそんなに寒い時期でもないので、黒子が掛け布団を一枚つかい、火神には毛布一枚で我慢してもらうことにした。

「いやー疲れたー」
「僕も今日はなんだか疲れました」
「なんか、こうしてると高校の時に戻ったみたいだな」
「そう、ですね」
「別にもどりてーとか、そういういみじゃねーけどさ。またお前とバスケしてーな」
「…ぼくも、そう思います」

横になってしまうと、もうなんだか眠くて眠くてしょうがなかった。火神ともう少し近況だとか、思い出話だとか、そういうことをしたかったのだけれど、できそうになかった。火神といると同居している五人といるときとはまた違った暖かさを感じることがある。他の五人は、そういう暖かさを感じる人が、他にいるのだろうか、と、黒子はうつらうつら考えながら、瞼を落とした。


END


リクエスト頂いたキセキハウスに火神が泊まる話でした。
なんかこう…もうちょっとみんなでわいわいする話も書きたかったんですが、私的にちょっとキセキが閉鎖的なイメージがあるのでこんな話になりました。


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