ひとつだけ約束しよう、呪文はいちどきりだよ






※帝光中学時代










「青峰君」

青峰の部屋でテレビを見ていたときに、黒子がテレビから視線を外さずに青峰の名前を呼んだ。テレビの内容ななんてことないバラエティだ。ダンスの小さな大会をテレビの企画で行っている。青峰も黒子もダンスなんてものに興味はなかったがしかし、ほかに面白い番組もなかったので、黙ってそれをみていた。今踊っているのは双子のネイティブアメリカンだった。ちょうど来日していたかなんかで参加している。明らかに他とは差があった。

「この人たち、君に少し似ています」
「…おい、俺の肌が黒いっていいたいのか」
「それもありますが、そうじゃないですよ。ほら、見てください。この人たち、たぶんダンスをしていない自分が想像できてない。ダンスをすることが当たり前で、息をするように踊ってる」
「…まぁ、すげーうまいけど」
「明らかに他とは大きな差があります。素人目にもわかるくらい。この人たちが、息をしているのか、それともダンスをしているのか、僕にはわからない」
「…眼鏡買うか?」
「君はほんとうに救いようのない馬鹿ですね」

黒子のセリフに、青峰は「ああん?」と額に青筋を立てた。しかし、黒子が至極真面目そうな顔をして画面を見つめているので、青峰は「どこが似てるんだ」と首を傾げた。

「だって、君、バスケをしていない自分というものを、想像できないでしょう」
「できるだろ、そりゃあ」
「僕は別に雑誌を読んだり、寝たり、食べたりしない、という意味でそう言ったわけじゃないですよ。君の今までの人生からバスケを差し引いたら、これからの人生からバスケを差し引いたら、なにも残らないでしょうと、そういう話をしているんです」
「…なんか俺がすげーつまんねー人間みたいに言われてんだけど」
「つまらなくはないです。バスケをしていないと、君は死んだようなものだなぁと、僕は思ったんです」
「なんだそれ」
「君のバスケはとても自然だ。そうあるべきふうに身体を動かして、まるでボールと一緒に生まれてきたみたいに、それを操る」

それこそただ息をしているみたいに、と黒子は溜息のような言葉を紡いだ。青峰はなんだか居心地が悪くなって、テレビに視線を戻した。双子のダンサーはいつの間にかダンスをやめていて、青峰はああこれが息をしているように踊るってことか、と思った。踊っていなくても、二人のしぐさは踊っていた。踊っていたときのパフォーマンスは、ただの二人のしぐさだった。そういう世界に、きっと二人はいるのだろう。

「今日はずいぶんおセンチだな」
「そうですか?僕は普段からこんなものですよ」
「そうかよ」
「そうです」

きっと青峰大輝からバスケを奪ってしまったら、なんにも残りはしない。青峰にとってバスケは息をするのと同じで、息をすることはバスケをするのと同じだ。黒子はそうじゃない。バスケに全部ささげたって、帰ってくるのはほんのちょっとだ。不自由の中でバスケをしている。けれど、この不自由の中でするバスケが、いっとう楽しい。不自由だということがわかっているから、そのなかで少しでもままになることがあれば、それを自由だと感じる。不自由がわからない、どこまでも自由な青峰は、きっと、自由というものが、わからないのだ。黒子は思う。青峰は一人でいれば、どこまでも自由だ。どこまでだっていける。けれど、それがチームプレイになったら、青峰は不自由だ。そうしてやっと、自由を知る。

「ふふふ」
「どうしたんだよ」
「僕は、青峰君、君を不自由にしたい」
「なんだそれ。なんだっけ…ヤンデレみたいだぞ」
「失礼ですね。でも、ふふ、そうですね、明日の練習が、たのしみです」
「なあ、腹減った」
「食べたら太りますよ」
「太らねーよ。だって明日も練習きついだろ」
「そうですね。でも、君はなんであれ、不自由を知るべきです。我慢してください」

バラエティはいつの間にか終わってしまっていた。あの双子が本当に優勝できたのか、見届けることはできなかった。青峰は不満そうにぶすくれて、「そんなの、不自由なことのが多いじゃねーかよ」と言った。


END


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