四十一日目






緊急事態が発生した。ゲームで言ったら超Sクラスの任務なのではないかと思う。青峰と黄瀬はとんでもないものを見る目でキッチンに立っていた赤司を見ていた。そろそろ夕食の時間だろうと下に降りてきたのだが、そのまま身体の向きを反転させて自室に引きこもってしまいたくなった。

「…大男二人でキッチンへの入口を塞がれると非常に困るのですが」
「うおっ!」
「ひっ」

青峰と黄瀬は突然後ろに現れた黒子にびくりと身体を震わせる。

「なんだよいたのか!」
「さっき降りてきたんですよ。そろそろ夕食の時間でしょう」
「驚かさないでほしいっす!」
「僕は別に…」

青峰と黄瀬の身体の隙間からキッチンを見た黒子が、ぴしりと音を立てて固まってしまった。そうこうしているうちに三人と同じようにそろそろ夕食の時間だろうと思って下に降りてきたらしい緑間と紫原も顔を見せる。

「何をしている。邪魔なのだよ」
「ちょっとーお腹減ってるんだからキッチンのドア塞がないでよー」
「ちょっ!静かにしろ!」
「緊急事態なんす!」

は?意味わかんない、と紫原が青峰と黄瀬を押しのけ、キッチンへ一歩入ると、そのままびしりと音を立てて固まった。それは緑間も同様で、眼鏡が曇っているとでも思ったのか、一度それを外して丁寧に拭いてからかけ直すも、どうやら眼鏡のくもりのせいではないと悟るやいなや、くるりとUターンしようとする。

「ちょっと待て!」
「いや、これは多分夢なのだよ」
「現実っす!」
「いやいや、さすがに赤司が泣いているだなんて現実は存在しないのだよ!」

緑間の言うようにキッチンに立っている赤司はぼろぼろと涙を流していた。どうにも治まらないのか、何度も袖口でそれを拭っては、目を瞬かせている。キッチンの入口でぎゃあぎゃあ騒いでいると、こちらに気づいたらしい赤司が「ああ、ごめん」と言って顔を背けるのだからいけない。

「赤ちんどうしたの?お腹すいてるの?お菓子あるよ!」
「赤司、悩みがあるのなら聞くのだよ。たしかに今日のいて座は最下位だが泣くことはないのだよ!」
「おい、腹でも痛ぇのか?それとも俺がお前の買ったスポドリ勝手に飲んだの怒ってんのか?悪かったって」
「赤司っちどうしたんすか?疲れてるなら栄養ドリンク飲んで寝るのが一番っすよ!夕食なら俺がかわりに作るっす!」
「赤司くん、無理はいけません。何があったのか話せる範囲でいいので話してくれませんか?僕ができることならなんでもしますから」

五人がわたわたと赤司を取り囲むも、赤司は「いや、これは…なんでもないんだ」と言って無理に涙を拭おうとしてしまう。

「こすっちゃ駄目っすよ!赤くなっちゃうっす!」
「無理はすべきじゃないのだよ」
「そーそーとりあえずソファ行こー。そうすれば少しは落ち着くよ!」
「スポドリならまた買い出しの時に買ってくるからよ!」
「赤司君、歩けますか?」

どうにも涙が治まらないらしい赤司を、五人で囲むようにしてどうにかリビングのソファまで連れていった。そうして赤司をそこに座らせて、ティッシュやらお菓子やらいろいろと与えてみると、赤司は落ち着いたらしく、涙がおさまったようだった。

「もう、びっくりしたよー」
「まったくなのだよ」
「久々に心臓止まるかと思ったぜ…」
「目元まだ赤いっすね。蒸しタオル作った方がいいっすか?」
「…ところで、どうしてキッチンで泣いてたんですか?」

黒子が首をかしげると、赤司は「ああ、」となんでもないような顔をして、「たまねぎをみじん切りにしていたら思ったより目に染みてしまってね」と。

それを聞いた瞬間、五人はどっと疲れたような顔になった。

「はやくそれを言うのだよ!」
「言ったじゃないか、なんでもないって」
「それじゃ余計心配になるよー」
「分かりづれぇんだよ!」
「もー!心配したじゃないっすか!」
「それは…すまないことをしたと思うが…まさかお前たちがこんなに心配するとは思わなくてね」
「…赤司君、途中からわざとやってませんでしたか?」
「さあ、どうだろうね」

黒子が恨めしそうな目を向けると、赤司はくすりと愉しそうに口の端をあげた。なんにせよたいしたことでなくてよかった、と安心する面々を見て、なんだか嬉しそうに。


END


リクエストいただいた「大泣きする赤司をなぐさめるキセキ」の話でした。
ちょっと赤司が号泣する理由が玉ねぎくらいしかおもいつかなかったのでこんなことに…
ありがちな話ですみません。



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