四十日目




「緑間っちって落ち着いた感じの服がやっぱ似合うと思うんすよね」

黄瀬はやたら楽しそうに多種多様な衣服の引っ掛けられたハンガーをかちゃかちゃと鳴らした。こないだの約束をきっちり守るために緑間は黄瀬の買い物に付き合っているのだが、黄瀬は自分の買い物などする気がないらしい。緑間に似合いそうな服を見つけては、それを緑間に持たせて店員顔負けに試着室へ押し込んでしまう。黄瀬はあまり奇抜ではなく、落ち着いていながらも緑間が着るとラインが綺麗に出るような服をきっちり選んでいた。さらにシンプルでもどこかに遊び心のようなものがあるものを見つけてくる。こういうところ本当にセンスがあるのだなぁと緑間は関心しつつも、10着以上試着をしているとそろそろ自分が着せ替え人形にでもなっているような気分になってくる。

「おい、そろそろレジに行くのだよ」
「え、ちょっとまって!これとこれだけ着てみて!このニット、素材がすげーいいから着心地とかいいっすよ!色も明るめだからさっき選んだジャケットとぴったりだと思うんすよね!」
「…これで最後だろうな」
「とりあえずトップスとボトムスはこれくらいで…あとは小物とか見にいきたいっすね!」
「まだ買うのか!ここの会計だけでもかなりの額なのだよ!」
「じゃあじゃあ、小物は俺も使えるから、割り勘で!そうしたら大丈夫っすよ!それに小物は服よりずっと安いし!」

渋る緑間を試着室に押し込み、黄瀬は楽しそうにそれを外で待っている。緑間がとりあえず明るい色のニットに着替えてカーテンを開けると、黄瀬は「やっぱぴったりっすね!緑間っちわりに肩周りとか筋肉ついてるからそういうニット着るとほんと綺麗にライン出るんすよねー」とショップ店員よりも歯の浮くような台詞をなんでもないように言ってくる。一時間以上褒められ続けているとなんだか本当に悪くないような気がしてくるからいけない。黄瀬が緑間が試着した中からさらにヘビロテしても持ちそうな素材のものや着回しがききそうな組み合わせを選んで、6着くらいをレジへ持っていった。緑間はこれから着るほとんどの服を買ってしまうつもりでかなり大目に持ってきていたのだが、打ち出された小計に溜息を禁じえない。

大きな袋を肩から下げて、黄瀬が次の店へと緑間を引っ張っていった。そこは小物の専門店らしく、メンズのピアスや小洒落た時計、ストールやハットが通路を埋め尽くす勢いで並んでいた。がちゃがちゃとうるさい色彩に、緑間は頭が痛くなるようだったが、黄瀬は「この季節だったらストールとか欲しいっすよねぇ」とか「緑間っちこのハットとか似合いそう」だとか「革のアクセって大抵の服に合うから重宝するっすよ!」とどんどん店の中に入っていってしまう。仕方なくついていくのだが、どれも緑間には派手すぎるような気がしてならなかった。

「おい、少し派手じゃないか」
「アクセはちょっと派手なくらいが差し色とかで使えていいんすよ。ほら、さっき買った服もわりとシンプルなうやつ多かったから、これくらいのやつ合わせないとぼんやりした印象になっちゃうんすよ!」
「…お前は本当に詳しいな…」
「これでもモデルっすからね!今年の流行色から流行ってる素材までバッチリっすよ!」
「どうしてそんなことは覚えられるのに英単語のひとつも覚えられないんだ…」
「ちょ、こんなときにまでべんきょーの話しないでほしいっす!あ、ほら、このストールとかオレンジ綺麗っすよ!」

秀徳カラー、と黄瀬が持ち出すそれは本当に綺麗なオレンジだったが、鮮やかすぎることはなく、少し褪せたような加工がされていた。デザインも凝っていて、網目が細かな部分と大きな部分がストライプを作っていた。

「やっぱ緑間っちオレンジ似合うっすね!」
「…これは悪くないのだよ」
「じゃーこれと、あとブレス欲しいっすね。俺革のやつあんま持ってないんすよね。革と金属の組み合わせのが欲しいんすけど…」

黄瀬がちょろちょろと店内をうろつくので、ついていくのに疲れた緑間は仕方なく別行動で店内を見て回ることにした。しばらくなんとなく店内を見ていると、ふと、ピアスのコーナーに目が止まった。少し大きめのスタッド型のピアスで、綺麗な青の玉がついている。ちょうどバラ売りらしく、セットではなくたった一つだけがプラスチックの台に刺さっている。

「おい、黄瀬」
「ん?どうしたんすか?」
「海常カラーなのだよ。お前によく似合うだろう」

緑間がそれを黄瀬に差し出すと。黄瀬は少し照れながらそれを耳に近づけ、「あ、これいいっすね」と。

「でも、ここの会計割り勘にするじゃないっすか。ピアスだと俺しかつけれないっすよ」
「さっきのストール、お前には似合わないものだからこれであいこなのだよ」
「…まぁ、そうっすけど」

せっかく今日は俺がイケメンになる番だったのに、と黄瀬が呟くと、緑間は「なにか言ったか?」と。黄瀬は「なんでもないっすよ!」と言ってまたがちゃがちゃした店内を物色にかかった。緑間もまたなんとなく店内を見回しはじめる。お互いに、どれが相手に似合うかなぁなんて考えながら。


END


リクエスト頂いてた「黄瀬が緑間の服を見立てる話」でした。
服?っていうか後半小物になっちゃいましたが…。

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