三十四日目






「へー真ちゃんこんな綺麗なとこ住んでんだーすげー広いねー」

玄関に通された高尾はキョロキョロとせわしなくあたりを見回して感動したように逐一「綺麗」だとか「広い」を繰り返す。緑間はため息を吐きながら、「お前が基礎化学の中間テストがわからないと言うから連れてきたんだぞ」と。

高尾は緑間とは違う大学だったが、同じ地区の私立に通っていた。文系だったがどうにも化学や物理が必要になる学科だったため、困りに困った高尾が緑間に助けを求めた。一週間後には中間テストだというのに授業内容どころか用語すらもちんぷんかんぷんで泣きそうになった高尾が緑間に電話をしたのが今日の午後。お互い夜は空いているということで広いキセキハウスで勉強することになった。もちろん赤司に許可はとってある。部屋にいく前にリビングをのぞくと黄瀬以外はそろっていたので高尾が来ている旨を伝えると、高尾が「おじゃましまーす」とリビングやらキッチンやらをキョロキョロと見回したり「すげぇ」を連発したりと当初の目的を忘れているかのようにはしゃぎ回ったので緑間は「うるさいのだよ」と高尾を自分の部屋に連れていった。

「なんだよーもっと色々見たかったのにー」
「お前が勉強がわからないというから付き合ってやってるのだよ!それに!一応俺だけの家ではないのだからそこはわきまえろ」
「ちぇー」

高尾は不服そうにしながら参考書を取り出した。高尾はローテーブルに筆記用具やら電子辞書やらを広げ、緑間は高校時代に使っていた化学の教科書を取り出す。緑間が高尾の参考書に目を通すと「お前はこんな基礎中の基礎もわからないのか」とため息をついた。内容は分子やら原子、陽子に中性子、イオン、素粒子にすこし触れている程度で高校基礎のレベルだった。

「だって俺文系じゃん!化学なんて高校一年でやったっきりでもう忘れたに決まってんじゃん!ほんとこれ留年かかわってくるんだって!一年ですでに留年確定とか絶対やだ!」
「わかったから静かにしろ。これくらいなら一週間あれば覚えられる」

まずどこからわからないのか確かめるために原子の構成を尋ねてみたが、高尾は「マイナスイオンとプラスイオン」とちんぷんかんぷんな答えをするばかりで、緑間は頭が痛くなった。

二時間ほどぶっ続けで勉強すると、高尾が「もう疲れたー」と泣き言を言い出したので、緑間は頃合だったので休憩にすることにした。コーヒーでもいれるかとキッチンに行くと、紫原がなんとなく物欲しそうにしていたので三人分のコーヒーをいれる。ケトルでお湯を沸かしているときに紫原が寄ってきた。

「ねぇ、みどちん」
「なんだ。コーヒーならもう少し待て」
「うん、砂糖と牛乳たっぷりね」
「わかっているのだよ」
「あとさ、みどちんのともだち今日泊まってくの?」
「いや、日付が変わる前には帰ると思うが。なぜだ」
「べつにー。ただなんとなく」

紫原の言動が少し気になったが、緑間はさっさとコーヒーをドリップして、ひとつは紫原にわたし、マグカップを二つ持って部屋に戻った。

「お、サンキュ」
「砂糖は必要だったか?」
「いや、眠かったからブラックでいいよ」
「そうか。ブルーマウンテンブレンドだが苦手だったらすまん」
「いや、俺コーヒーとか全部同じ味にしか感じないからさ。てか真ちゃんが苦手なんじゃないの?」
「…なぜ俺の好みをお前が知っている」
「いや言い方がさ。真ちゃんわかりやすいもんよ」
「…最近は飲みなれたからかわりと飲めるようになったんだがな」
「そんな違うかねー」
「コーヒー飲んだら再開なのだよ」
「うげーゆっくり飲もう」

緑間が時計を確認してみると、もう十時になる頃だった。このまま泊まっていくか、と言いそうになってから、なんとなく紫原の言葉を思い出し、「日付が変わる前には切り上げるのだよ」と言った。

「え、ああ、うん」
「なんだ」
「いや泊まっていくかって言われんのかと思って」
「…いや、一応ここに住んでいるのは俺だけではないからな」
「なんか不便だなー」
「…そうでも、ないさ」

緑間は色々と思うところがあるのか少しばかり頬を緩めた。それがなんだか高尾には寂しいような、嬉しいような、とにかく複雑に感じられた。おかしなことだ。丁寧にドリップされたコーヒーが、苦々しく喉を通りすぎる。


END


なんか中途半端なような話になりましたがキセキルームに高尾が訪問する話でした。
紫原がわりとキセキハウスにだれか部外者入るのよく思ってなさそう。
緑間が楽しいならそれはそれでいいんだけど、高尾的にはちょっとそれに嫉妬してたり、俺の立場は?みたいになってたら可愛いなあと思って書いた話です。



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