二百二十五日目






「そういえば、紫原君もそうですけど、青峰君の方の話ってとんと聞きませんね」

先ほど製菓サークルでの紫原の話になったあと、それがひと段落してから黒子がぼそりとつぶやいた。すると先ほどまで話のネタにされていた紫原が、「そうだよねー。峰ちん、そういやたまに部活休むよねー」と。青峰は途端に渋い顔になる。

「いや…ぼちぼちだろ…」
「人には女子目当てーとか言っといて、自分の話になるとそうなんだ。あやしー」
「いや、ワンゲルは基本男のが多いからな!ふつうに山登ったり、キャンプしたり、とにかくアウトドアって感じだろ。部活休んでんのは山登るってなると泊まりになるからだっつーの。それだって月に一回あるかねーかだろ!」
「青峰君って、自分のこと話すの苦手ですよね」
「うるせーよ」
「ワンダーフォーゲル?だったっけ?なんでそんな名前?山岳部と違うんすか?」

黄瀬はそう言って首を傾げた。

「ワンダーフォーゲルというのはドイツ語で渡り鳥、という意味だ。戦前期のドイツで起こった青年たちの野外活動に由来すると言われている。山岳部は登山を競技ととらえ、大会などにも参加する。しかしワンダーフォーゲル部はアウトドアを楽しむ、という目的が強いから登山はするが大会には参加しないことが多いかな」
「へー。赤司っちってなんでも知ってるっすよね」
「なんでもではないさ」

紫原がインドア派なサークルなのに対して、青峰はかなりアウトドアなサークルに参加していた。黄瀬はこれにも興味があるらしい。緑間も顔には出さないが黙って話の行く末を見守っているようである。

「山ってどこ登ったんすか?高尾山?」
「んなとこワンゲルで登るかよ!もっと高い山だっつーの!なんだったか…最近行ったのは…おん…雄叫び山じゃなくて…」

青峰が頭を抱えて「お…お…」と言うので、赤司が「御岳山」と助け舟を出した。

「そう!そこだ!おんたけさんとかいうとこに登ってきたな!」
「自分が登った山くらい覚えておくのだよ…」
「山は山だろ!変わんねーよ!」
「青峰君って、自然とかそういうの大好きそうなわりに自然ならなんでもいいって感じですよね」
「んだよ、わりーのかよ」
「いえ、君らしくて結構だと思います」

青峰は少し不満が残るのが少しぶすくれてしまった。しかしどうやらワンダーフォーゲル部での活動はなかなかに充実しているらしい。黄瀬が「なんか面白いことないんすか?」と尋ねると、嬉々として、「毎回ネタ発表っつーのがあってよ!」とワンゲルでの話を語り始める。

「こんなんぜってー山に持ち込まねーだろってもんを持ってくんだよ!」
「たとえば…なんでしょう」
「パイナップルとか持ってきた馬鹿いたな!俺はバスケットボール持ってったけど!」
「君って結構面白味のない人間ですよね」
「うっせーな!帰り路ハンドリングしながら帰ってきてやったっつーの!」
「馬鹿に器用なのだよ…」
「馬鹿は余計だっつーの!」

青峰も紫原同様他のサークルでもどうにかうまくやっていけているらしい。中学の後半から高校一年にかけてでは少し信じがたいことだ。黒子は自分も何か聞かれるのだろうか、と身構えたが、どうにも話の流れは変わらないまま夕飯が終了してしまった。黒子としては今度天文部で秋の星を観る会というのを企画しているのでその宣伝をしたかったのだけれど。まぁ終わってしまったものは仕方がない。そういえば赤司も囲碁将棋同好会に入っていたはずだが、それはどうなのだろう、と黒子は食器を片づけなかがら赤司の方に目を向けた。しかし赤司は「なんだい?」と首を傾げるばかりで、話す気はないようだった。どうせたまにふらりと現れては先輩をボコボコにでもしているのだろう。先輩たちが哀れである。黒子はそれぞれがそれぞれにほかの部活を楽しんでいるようでなにより、と思うことにした。自分が知らない他人の顔、というのもなかなかに興味深い。


END


リクエストいただいてた「青峰のワンダーフォーゲル部関連の話」でした。
リクエストありがとうございました。

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