二百二十日目






最近赤司の体調があまりよろしくない、ということは全員それとなく気づいているようだった。青峰と紫原は前回赤司が倒れた時を含め二回ほどそれに遭遇しているし、黒子も昨日の夜に赤司の偏頭痛の現場に遭遇した。どうにもよろしくない。偏頭痛の原因がなんであれ、赤司の体調が悪いことには変わりなかった。

「最近赤司っち体調悪そうっすよねー」

赤司以外が集まった部室で、黄瀬がなんとはなしにそう言った。今日は赤司だけが5コマが入っており、少し遅れてくるのだ。黒子は昨日のことは黙っておくべきだろうと思い、「そうですね」とだけ返した。

「こないだ倒れてたしな。偏頭痛ってそんなひどくなるもんなのかよ?」
「さあねー。峰ちんには縁がない病気だろうからねー」
「どういう意味だコラ」
「まぁ、それだけストレスがかかっている、ということなのだよ」

偏頭痛の原因は色々とあるらしいが、その多くはストレスからくるものらしい。家の管理や部活の主将等、赤司には苦労が絶えない。そして赤司は二人いる。ウィンターカップで一度昔の赤司に戻ったし、しばらくはそのままだったのだけれど、大学に入学してからは中学後半の赤司が出てきているようだった。なんだか不思議な心持がある。たぶん赤司はそろそろ自分の人格をコントロールできているだろうに、その人格のままでいるというのには何かわけがあるのかもしれない。推し量ることはできないのだけれど。

全員でじっと押し黙ってしまったあたりに、緑間以外の携帯から一斉に通知音がした。ラインの通知音だったので確認してみると、それは赤司からのグループメッセージだった。珍しく体調不良で部活を休むらしい。指示は監督と四年に仰ぐように、とのことだった。全員が溜息をつく。どうやら赤司の体調不良は深刻らしい。

「病院には行ってるんでしたよね?」
「たしかかかりつけがあると言っていたのだよ」
「んーでもやっぱ心配っすよねー」
「まぁ、寝てりゃ治るんだろ?」
「偏頭痛って長いと三日以上続くんでしょ?大変だよねー」
「ていうか今朝も具合悪そうじゃなかったっすか?ふつうに朝食当番こなしてたっすけど」
「少し動きが緩慢だったのだよ」
「…ここだけの話、昨日の夜から具合悪かったみたいですよ」

黒子は言っておいたほうがいいと判断したのか、昨日の夜の出来事を多少ぼかしながら説明した。ただ授業でわからないところを聞きに行ったとき、体調が悪そうだった、という程度だ。これくらいならば問題あるまい。しかしそれを聞いた黄瀬は「なんで赤司っちって俺らのことあんま頼ってくんないんすかね」と。

「そりゃあ、赤司からしたら俺らなんかたよりねーだろ」
「まぁ、そうだろうな」
「でも!体調悪いときくらい朝食当番とか変わるっすよ!」
「そうですけど、きっと、赤司君はあまり頼り方を知らないんじゃないでしょうか」

赤司は厳しい父親に育てられ、早くから自立することを強制させられていた。赤司もそれに従って、きっと小学の時から自立を心掛けていたのだろう。赤司の性格はいつかの青峰のバスケのように、人を頼るようにはできていないらしい。青峰の時も、紫原の時も、手を差し伸べたのは青峰と紫原だった。赤司から積極的に頼ったわけではないのだ。まるで絶滅危惧種の動物のようだ。たった一人で生きている。たった一人で自分の世界は完結している。それが寂しくもあり、完全なる存在でもあった。

「部活終わったら今日は早く帰ろう。寄り道とかしないで」

黄瀬がそう言うと、「まぁ、そうだな」と、全員が同意した。頼られないとはわかっていたけれど、それでも、近くにいたら何かできることがあるのではないかと思ったものだから。


END


リクエストいただいた「赤司が弱ってる話」でした。
リクエストありがとうございました。

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