二百十一日目






青峰と黄瀬が休憩から戻ってきたので、今度は黒子と紫原が休憩に入ることとなった。二人はもう四時間も立ちっぱなしだったうえにお昼時のピークをずっと炭火の近くであくせく働いていたのでなかなかにぐったりしていた。しかしテントを離れると熱気も和らいで、少しだけましな気分になる。売上は上々で、このぶんだと閉会を待たずしてフランクフルトは完売しそうだった。黄瀬が戻ったことでさらに売り上げも伸びるだろうから、少し早目に戻って片づけを手伝った方がいいかもしれない。しかしまずは休憩、と、紫原と黒子は青峰と黄瀬が差し入れてくれた飲み物や焼きそばを手に中央食堂前のベンチへ腰かけた。

「あー疲れたねー」
「そうですね…もう脚がぱんぱんです」
「女の人がさーよく足がむくむーとか言うけどこういう感覚のこと言ってるのかな」
「女性は大変ですね」

そんな雑談をしながら、黒子と紫原は焼きそばについていた割り箸をぱきんと割った。一応自分たちのフランクフルトをつまんでいたとはいえ、おなかはぺこぺこだったのだ。

「…学生クオリティだね、この焼きそば」

焼きそばを一口食べてから、紫原はそんなことを口にした。黒子もまぁ思うところがあるらしく「そんなものですよ」とその焼きそばを食べている。

「まぁ学園祭なんて一番楽しいのはお客さんじゃなくてやってる側だからねー」
「そうですね」
「これ食べ終わったらさ、俺、製菓サークルの屋台に顔出したいんだけど」
「僕もそのあとでいいので、天文部の方に顔を出したいです。校内で展示をやっているんですよ。プラネタリウムをやってるんです」
「へぇ、すごいね」
「まぁこれも学生クオリティですよ。段ボールを切り貼りして、着色してドームを作ったんです。それから、本体の光が出るやつはボウルにアイスピックで穴あけたのですし」
「すごいお手製ってかんじだね」
「そこがまぁいいところなんですが」

二人は焼きそばを食べ終わると、まず紫原が所属している製菓サークルの屋台へと脚を運んだ。そこではカップでババロアを売り出しており、紫原が顔を見せると何人かの女子が話かけていた。黒子は何も買わないのもアレだから、と、そのカップのババロアを差し入れ用にと四つ注文した。紫原も売り上げに貢献するためか二つ、それを買った。紫原は少しだけ「売上どお?」だとかそういう話をして、「じゃあね」とそこを後にした。そうして、二つ買ったうちのひとつを黒子に手渡す。黒子は「いいんですか?」と首をかしげた。

「いいよ。俺、試食会でこれは死ぬほど食べたから。それなりにおいしいよ」
「はぁ、ありがとうございます」

二人はババロアを食べながら、今度は校舎の方へと向かった。黒子が所属する天文部の展示を見るためだ。

「紫原君、星に興味ありましたっけ?」
「んーまぁまぁかな。地学は好きだったよ」
「そうですか。すみません、つきあわせてしまって」
「いいよ。黒ちんもこっちの売り上げに貢献してくれたし」

天文部は文学部棟の三階の広い教室を使って展示をしていた。プラネタリウムの他にも、模造紙に自由研究よろしく星座の解説を載せていたり、紙粘土で模型を作って惑星の大きさを比較したりしていた。二人が入った時にちょうどプラネタリウムが始まる時間だったので、二人はそのままプラネタリウムに入ることにした。遮光の関係で部屋全体を真っ暗にして行うらしい。

「なんかこういうのいいね」
「そうですか?個人的には展示が見えなくなって効率が悪いと思うんですが」
「黒ちんそういうとこシビアだよね」

プラネタリウムは淡い光がちゃんと星の場所を示していて、クオリティとしてはなかなかのものだった。天文部員がきちんと解説もつけてくれるのでわかりやすい。ちょうど今頃の星空の解説だったものだから、これからの帰り道は空を見上げながら帰ることになりそうだった。少しだけ眠くはなったのだけれど。

二人はプラネタリウムを出ると、ぶらぶらと校舎内を見て回った。黒子が興味を持っている文芸同好会の展示や、紫原が興味を持ったたんぽぽ珈琲喫茶など、色々とまわっているうちに休憩時間は残り30分となってしまった。閉会も近いので、品切れになったサークルはばたばたと片づけをはじめてしまっている。携帯電話でLINEを開いてみると、黄瀬が「フランクフルト売り切れ!大盛況だったっすよー」とコメントしていた。今は商品はないが一回50円でイケメンと写真を撮れる屋台として稼働しているらしい。そんなことでもお金が手に入るのだから文化祭とは恐ろしいものだ。

「そろそろもどろっか。片づけ手伝わなきゃ」
「そうですね。なかなか楽しめましたし」
「屋台も楽しかったよね」
「そうですね」
「打ち上げ、何しようか」
「そういえば、そんな話もありました。お酒はまだ飲めないのでどこかへ遊びに行こうって話でしたが」
「うん、それね、俺ちょっと提案があるんだよね」
「なんです?」
「来週末、みんなで遊園地行こうよ。近くの小さいとこだったらみんなで行けるくらいは売上あったし」
「へぇ、いいですね。僕修学旅行以来かもしれません、遊園地」
「こないだミドチンと黄瀬ちん二人で行ってたらしくて、うらやましいなって思ってたんだよね」
「ふふ、そうですか」

二人は人もまばらになってきた校内を歩きながら、少しだけ寂しい気分を味わった。お祭りの終わりというのはいつも小さな寂寥をはらんでいる。賑やかな中に終わりを感じるのだ。文化祭も、もう終わりが近い。


END


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