二百九日目






文化祭二日目、赤司と緑間は開店の準備だけ手伝うと早々に休憩に入った。そういうシフトなのだ。今の内に文化祭を満喫しておかねばなるまい。開場は9時からで、2人は11時までが休憩だった。黄瀬と青峰が11時から13時まで休憩で、黒子と紫原が13時から15時まで休憩。文化祭の閉会が16時なので、残り一時間は片づけをしつつ全員がシフトに入る手筈になっていた。

赤司と緑間は開場して間もない学内を歩き、まずはじめに茶道部のお茶会に参加することにした。参加料300円で、少し高めだが、茶道部の出す和菓子がとてもおしいと評判だった。開場は農学部横の広場で、野点である。二人はパイプ椅子の席に入ったのだが、運がいいのか悪いのか、人が少ないこともあって赤司が正客、緑間が次客の席に座ってしまった。正客というのは客の中でも手数が多い一番目の客のことで、次客は二番目の客だった。見る限り大学の茶道部は表千家の装いをしており、裏千家の心得しかない赤司はどうしたものかと少し顎に指を添える。しかしそこは略式らしい。半頭と呼ばれる茶会の進行役も赤司に礼を求めることはなかったし、緑間も一度頭を下げる程度でよかった。二人はお菓子が運ばれてくると、あの道具は何だとか、あの布はなんだとかとういうことをこそこそとやりとりをした。やりとりをするときに、席順の関係で緑間は何度か言葉を濁したり、赤司に何事か聞き返すことが多々あった。赤司はその時には少し声を大きくして、緑間にあれこれと説明を加えた。

茶道部のお茶会が終わったあたりに、赤司は歩を進めながら、緑間に「何か隠していることはないかい」と言った。その目は全てを見透かしているようで、緑間は少しためらってから、「右耳が」とだけ言った。それだけで赤司には十分だった。赤司はほぼほぼ察しがついていたらしい。「そう」とだけ言って、あとは言及しなかった。なんでもかんでもお見通しらしい。

「何か聞かないのか」
「いや、まぁ、なぜ僕に報告しなかったのかと問いただしたいところではあるのだが。まぁ、ほぼほぼ治ってきてはいるのだろう?」
「そうだな。来週からは練習にも参加できそうなのだよ」
「そう。昨日、高校の同級生と会っていただろう。悩み事は解決したか?」
「解決するような悩みでもない」
「だろうね。そうだね…僕の意見としては…どうだろう。お前に部活を続けて欲しいという気持ちはあるけれど、それが部にとってマイナスになるようなことがあればいつだってスタメンは降ろすだろうね。けれどこれは主将としての意見だ。僕個人としては…」
「来年だ」
「なに?」
「そのことは、来年になってから決めるのだよ。今年度いっぱいは部活を継続する」
「…そう」

赤司はくすりと笑うと、「さて、次は囲碁将棋同好会でも負かしに行こうか」と校舎の方を指さした。校舎内では室内展示や喫茶店を行っている部やサークルが多くあり、それなりに賑わいを見せている。赤司が囲碁将棋同好会なんてところに行ったら休憩時間がまるまるつぶれてしまうだろうな、と、緑間は少し笑って、「あまり厳しくせめるなよ」と言った。文化祭はまだまだこれからである。


END


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