二百六日目






黒子がスマートフォンにした翌日から、黄瀬がうるさいくらいにLINEで話しかけてくるようになった。それは黄瀬が授業中のはずの時間帯や、昼休みや、黒子の講義が終わってからも定期的にコメントが送信されてきて、黒子はどこで会話を切っていいのか困ってしまう。さすがに授業中はコメントを返さなかったのだが、そうすると「黒子っち?」「ねぇねぇ」などという意味のないコメントが連なり、困った黒子は生活用品の買い出しも含め、黄瀬を買物に誘った。放っておくと部活がはじまるまでずっとそういうコメントを送り続けられそうだったものだから。

「黒子っちと二人で買い物とか何気にはじめてじゃないっスか?」
「そうでしたっけ。それよりも黄瀬くん、LINEであまり話しかけてこないでください。少なくとも僕が返すまでは次のコメントは禁止です」
「あ、そうだ、秋冬ものとか服見にいこうっス!俺がプロデュースするっスよ!」
「…話、聞いてます?」

黄瀬と黒子は生活雑貨のテナントも入っている大型ショッピングモールに来ていた。ここは大学からも比較的近いし、自宅からもそう遠くない。3コマ終わりの時間であれば、部活までにゆっくりとショッピングができそうだった。黄瀬は秋冬ものが並んだメンズファッションのテナントへ黒子を引っ張っていき、あれが似合うこれが似合うとどんどん服を押し付けていった。黒子は財布を見て「そうそう買えませんけど」と言うが、黄瀬は「ここ安いとこだから大丈夫っスよ!」と言って、大量の服と一緒に黒子を試着室へと押し込んでしまった。

「青峰っちの愚行にはもう諦めがついたんスけど、黒子っちはまだあきらめるの早いっスよ!ジャケットは着回しきくし、バンディングパンツとか1枚着るだけでそれっぽくなるし!黒子っちはわりにクールだからUネックよりはVネックっすかね!あとかっちり見せたいならシャツとかもいいっスよ!パンツに合わせればカジュアルっすけど、それなりに見えるし!」
「…君、こうやって緑間君にも服を押し付けたんですか…」
「人聞き悪いっスね!コーディネートしたんすよ!できれば青峰っちもやりたいんスけど、あの人は服のセンスはいいんスよね!やる気ないだけで!だから黒子っち!」
「服って高いんですよ?秋とか冬とか関係なく着られるものじゃないと…」
「冬になっても着られるしなんなら春だって着れるやつ選ぶっスから!」

黄瀬は黒子が普段選ばないようなモノトーン系を多く黒子に着せていた。黒子は普段淡い色ばかりなので、自分にこれが本当に似合っているのかと不安になってしまう。しかしカーテンを開ければショップ店員並みに「似合うっスよ!」とべた褒めしてくるし、これにはこっちのが似合うだとか、着回しを考えたらこっちの方が、と、黒子よりもずっと黒子の服について悩んでいるようだ。黄瀬の選ぶ服はたしかに着回しがきくし、黒子の普段の服との相性もいいようだった。こういうところさすがはモデルである。

黒子は結局、深い紺に鈍い金のストライプが入ったジャケットと、黒のバンディングパンツと、白地にグレーの入った厚手のシャツを買わされてしまった。ショップ店員さながらの腕前である。

「どうせならもう一回家に戻って着替えてから部活に出たらどうっスか?」
「それならもうジャージに着替えます」
「じゃあ明日はその恰好で学校行って欲しいっス!」
「…仕方ないですね…」

黒子はため息をつきながらも、自分では選ばないような服ばかりだったので、袋の中身を考えて少しだけ笑ってしまった。赤司もこんな気分だったのだろうか、と思ったのだ。あの時は驚いたものだ。今度は自分が驚かれる側になるのだろうか、と考えると頬が緩んでしまう。明日が少しだけ楽しみになった。


END


リクエストいただいてた「黄瀬が黒子をプロデュースする話」でした。
リクエストありがとうございました。

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