二百五日目






黒子のスマホを設定していたらいつの間にか夜も更けて、時計が十時を指示した。その時間になると、赤司が徐にゲームの電源を落とし、テレビをつける。緑間も少しは回復したのか、耳のあたりをおさえてリビングに顔を出した。

「あれ、緑間っち、大丈夫なんスか?」
「問題ない」

黄瀬と短いやりとりをしたのち、緑間は赤司に「テレビの音量を少し上げてくれないか」と言った。赤司はゲーム用に低く設定していた音量を引き上げ、チャンネルを変えた。そのチャンネルを見て、黄瀬が「わー!!」と大きな声を出して赤司からチャンネルを奪おうとする。

「何をするんだい、涼太」
「だって!ていうか!いやいや今日はやめとこう!?あー!あー!」
「うるさいのだよ」

ぎゃあぎゃあとわめく黄瀬にはじめ青峰と黒子と紫原は首を傾げていたが、そのすぐあとに流れ出したドラマを見て「ああ」と納得をした。今日は黄瀬が出演するドラマの放送日だったのだ。先週の一話も黄瀬をのぞいた全員で視聴している。一話といっても、このドラマは「最後の恋」をテーマにしたオムニバス形式のもので、毎度話も全く違うし、出演者も違う。黄瀬が出演するのはこの第二話のみだった。

「いやいやいや、ほんとこればっかりは勘弁っスよ!」
「どうしてだい?一話も結構面白かったけれど」
「いや、その、恥ずかしいっていうか…」
「前にももう黄瀬君が出演するドラマは見てるじゃないですか。その時はそわそわしてるだけだったのに、今回はどうしてまた」
「それは…」
「あ、黄瀬ちん出てきた」

黄瀬の役は遊び人的ポジションだった。どこか中学の頃の黄瀬を思わせる配役だ。その黄瀬が演じる主人公が、かなり年上の女性に恋をする。その女性はとても穏やかで、聡明で、はじめ主人公のことを軽蔑していた。主人公はその女性に惹かれていくうちに、今までの自分の恋とはなんだったのかを知ることになる。そうして、はじめて真摯に人と向き合い、その女性と結ばれることになるのだが、ある日その女性が病気にかかり、余命を先刻される。女性はそれを隠したまま主人公に接し、入院する前の日の晩に、主人公をベッドに誘うのだった。そこまで見てから、黄瀬がまたリモコンを赤司から奪い取ろうとした。赤司はもちろんそれをひょいとかわして、黄瀬に「どうしたんだい?」とにっこりほほ笑む。テレビの画面はこの時間にしてはぎりぎりな濡れ場に突入していた。

「うわ黄瀬ちんえろー」
「うわあああああああああ」
「なぁ、こういうのってほんとにやってんの?振りだけだよな?」
「やめて!やめてほしいっス!」
「いいシーンのはずなのになんていうか、黄瀬君が頭にちらついてすごく微妙な気分になります」
「それは俺も!俺も微妙な気分になるっスから!」
「相手の女優がリードしてくれたのかな。最初は緊張していたみたいだったけど、だんだん落ち着いてきたね」
「冷静に分析するのやめて!」
「…」
「緑間っちはなんか反応して!逆に怖いから!」

黄瀬がひとしきりぎゃあぎゃあ喚いていたら、やっとその濡れ場のシーンが終わり、物語は佳境へ突入する。最終的にヒロインの女性は病気で亡くなり、主人公は女性が亡くなってから彼女の病気を知ることとなった。主人公は絶望し、彼女の墓の前で声を殺して泣く。そうして最後に、「あんたが最初で最後だ」というセリフで物語は幕を閉じた。

「いや、いい話だったな」
「なぁ黄瀬、女優さんってほんとに全裸?おっぱいおっきかった?」
「黄瀬君、演技上手になりましたね」
「黄瀬ちん、童貞じゃなかったんだね」
「不潔ではないが不潔なのだよ」
「もうやめてほしいっス…」

黄瀬は顔を真っ赤にして、ずるずるとソファに沈み込んだ。もう絶対に自分が映画に出演するだとか、ドラマに出演するだとか、そういう情報は流さないようにしようと思った。しかし今回の放送日も黄瀬はしゃべったわけではないのだ。赤司が勝手に調べて、勝手にチャンネルを合わせたにすぎない。そういいうところ赤司の目をかいくぐるのは至難の業のように思えていけなかった。不可能に近いかもしれない。芸能人というのはある意味羞恥心との闘いなのかもしれない、と、黄瀬は赤らんだ頬に手をあてながらため息をついて、頭を抱えた。


END


リクエストいただいてた「恋愛ドラマに出演した黄瀬をキセキのみんなで見て、みんな照れちゃう(もしくはからかう)話」でした。
リクエストありがとうございました。

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