二百四日目






「…難しいものですね…」

黒子はスマートフォンの画面とにらめっこをしながらリビングで初期設定をしていた。初期設定と言っても、ほとんどはショップの店員がしてくれたので、必要なアプリを入れたり、個人設定をしたりという細かいものだったが、「アプリを入れる」という概念がガラケーにはなかったので、そこに四苦八苦している。隣で紫原も手伝っているのだけれど、不意に画面が戻ってしまったり、ホームボタンを押してしまってアプリが消えてしまったりとそれは難航していた。別のソファでは青峰がパンフレットを手にうんうんとうなっている。黄瀬も黒子がスマホを買ったと聞いてそこに集まっており、赤司もめずらしくスローライフゲームをしながらその先行きを見守っていた。緑間は少し体調が悪いということで部屋で休んでいる。黄瀬が一度様子を見にいったが、それぎりだ。

「黒子っちLINEは必須っスよ!絶対入れた方がいいっス!」
「…LINEの前に僕はこのついったーさんやふぇいすぶっくさんの初期設定をしなければいけないらしいんですが…」
「最近のアプリとかサイトはその二つのアカウントで登録できたりするから設定しとくと便利だよ。あと普通にコミュニケーションツールとして使えるし。デフォルトの公式アプリだと色々クソだけど、今はそれでいいでしょ。慣れてきたら非公式のやつにすればいいし」
「非公式?それは著作権はどうなっているんですか…犯罪じゃないんですか…」
「アプリとかは基本APIが公開されてるからそれで作るんだよ」
「紫原君、日本語をしゃべってください」
「アプリケーション・プログラム・インターフェイス」
「それは英語です!」
「LINEのアカウントも早くー」

黄瀬は明るい声でもって黒子をせかした。黒子は「いやだからまずはついったーとふぇいすぶっくに登録をですね」と画面とにらめっこしている。

「テツヤ、ツイッターのアカウントが作れたら教えてくれ。フォローするから」
「赤司君、ついったーなんてやってたんですか?」
「やっているよ。あれはなかなか面白い情報が入ってくるから。そうだ、元誠凛の降旗光樹ともひょんなことからつながっているが」
「はぁ…なかなか狭い世界なんですね…」
「広い世界だからこそじゃないか?おや、知らない魚が釣れたぞ。これはいくらで取引してもらえるんだ。いやまずは寄贈か?」
「オオイワナっスよ!なんで釣れるんスか!俺たちのとこじゃ全然つれないのに!」
「それは青峰君がずっと夏に設定してるからじゃ…」
「やっぱ色は黒か…?黒がいいんだけどよ、画面のでかさが…でかけりゃいいってもんじゃねぇってショップで思ったし…掌に収まるくらいが…」
「青峰っちって案外優柔不断なんスね」
「うるせぇよ!」

青峰は基本的に欲しいものは全部買うタイプの人間なのだがこればっかりは一つにしないといけない。バッシュやリストバンドのように迷ったから二つ買う、なんてことはできない値段なのだ。バッシュも相当高いのだけれど。

「あ、設定できたね。じゃあLINEおとそっか。俺と黄瀬ちんと赤ちんでグループやってるし、黒ちんの友達でもスマホ持ってる人なら基本やってるから」
「そうなんですか…えっと…アプリのストアで検索かければいいんですよね…」
「そうそう」
「個人的にこういったものより電子書籍を読めるアプリが欲しいんですが…」
「これの次に教えたげるから」

黒子はぶつくさ言いながらもLINEをダウンロードしはじめる。

「そういえば、ダウンロードしたあとにインストールするじゃないですか。これってどういうことなんですか?ダウンロードはさすがにわかるんですが、インストールとか言われてもよくわからないんですが」
「まぁ気にすることないんだけど…簡単に言ったら、ダウンロードでデータをスマホにいれて、インストールで実行可能状態にしてるってだけ。使えるように勝手にうまいことやってくれてるってだけだから」
「はあ、そうなんですか。よくわからないですけど、うまいことやってくれているんですね。あ、インストール終わりました。えっと…電話帳を読み込みますかって出たんですけど…」
「はい」
「はい。…え、あれ、僕何もしてないのに連絡先が沢山…え、これ個人情報ですよね?大丈夫なんですか?」
「多分」
「はぁ、世の中随分オープンな世界になりつつあることがわかりました」
「黒子っち!LINEに黒子っちが出た!グループ招待しとくっスよ!」
「ところでこのLINEというのはどういうものなんですか?」

黒子は見たところ連絡ツールのようなそれを見て首を傾げる。ホーム画面には自分のプロフィール欄とともだちという表記でいろんな人の連絡先が連なっていた。

「んー無料で電話できるアプリ。音質最悪だけど。あとはトークかな。一昔前のチャットみたいに人とやりとりできる。あとグループに登録すれば、大人数でチャットできる」
「はぁ、そうなんですか。あ、何か通知がきました」
「グループの招待じゃない?はいって押して」
「はい。あ、何か表示されましたね」
「それで黒ちん俺らのグループに入ったから。夕飯の買い出しとか生活用品とか帰る時間とかそういうのそこでやりとりしてる。あと黄瀬ちんが無駄な雑談入れてくる」
「だって仕事中寂しいんスもん!」
「はぁ、とにかく便利なものなんだということはわかりました」

黒子はここまで一通り紫原にレクチャーしてもらったおかげでアプリの落とし方やだいたいの操作方法をマスターできたようだった。試しにLINEで「こんにちは」とハウスシェアグループに送信したら、三人の携帯がピッコンと同時に音を鳴らす。便利な世の中になったものだ。


END


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