番外編1日目






日本での用事を終えた火神と氷室は、アメリカへ帰る飛行機に乗り込んでいた。故郷は一応日本なのだから、アメリカへ帰る、という表現もおかしいかもしれないが。しかし現在住んでいるのはアメリカだ。氷室はアメリカの大学へ通っており、現在フレッシュマン、日本で言うところの1年生で、火神はNBA選手を目指してフリーターをしながら地元バスケチームに揉まれている最中だった。お互いに環境は違えど、わりと近くに住んでいる。懐かしのロサンゼルス周辺だ。あのあたりはスポーツをするにも勉強をするにもちょうどいい環境が整っていた。来るときの飛行機内で2人はわりと久々に会ったこともあり現状を報告し合ったのだが、おおむねそんな内容だった。

飛行機の状態が安定したというアナウンスを受けて、2人は堅苦しいシートベルトを外した。リクライニングシートをちょうどいい角度に倒してから、一息つく。これで半日後にはまたあわただしい生活の中へと帰っていくことになるのだ。日本でもわりとばたばたしていたけれど、それはアメリカで感じているあわただしさとは質が違っているようでもあった。そうして火神は少しだけ、キセキの世代がしていた6人での生活に思いを馳せた。羨望がないとは言わない。火神の現在住んでいる地域は少々日本人が少ない場所だった。アメリカ人やもしくはアジア系、ヒスパニック系は在留しているが、日本語で打ち解けた話をするという機会は少し少ないかもしれない。だから日本にきての数日間は少しだけ、楽だったように思える。こういう気持ちを里心がつく、というのだろうか。とにかく火神は知らないうちに、深い溜息をついてしまっていた。

「アメリカに帰りたくないかい?タイガ」

そんな火神の様子に気づいたのか、氷室がなんとはなしに日本語で話しかけてきた。航空機内で久々に耳にする言語だ。ロサンゼルス行きの飛行機はわりと英語が主流で使われており、乗客にも日本人はまばらだった。観光シーズンではないからかもしれないが。とにかく、溜息に気が付いていない火神は、すこし首を傾げた。

「ん?なんでだよ」
「今大きなため息をついていたから」
「え?そうか?」
「気が付いてなかったのかい?今してたじゃないか」
「まじかよ…いや…どうだろ…なんか俺、初日黒子たちの家に泊まったからかもしんねーな」
「そう。そういえばどうだった。アツシの暮らしぶりも気になっていたんだ。アツシはなかなか集団生活になじまないような性格をしているから、ちゃんと馴染めているのかと思って。いや、中学時代のチームメイトだから、余計な心配かもしれないけれどね」
「そうだな…んー…紫原を気を付けてみてたわけじゃねーけど、うまくやってんじゃねーのか?楽しそうに見えた。むしろ俺すげー邪魔した感じがある」
「そう、それは意外だ。そうだね、アツシからはよくメールももらうけれど、楽しそうだな、とは思っていたよ。直接、『たのしい』だなんて言葉は聞かないけれど。アツシはそういうところシャイなんだよね」
「お前ほんと…なんつーか兄貴っていうか…弟を欲しがるっていうか…なんつーの、過保護?なとこあるよな…」
「そうかい?」

飛行機はすでに空高いところを飛んでおり、窓から見える景色の下には雲の海が広がっていた。その下の天気はわからないが、雲の上というのはいつだって平和でのんびりと晴れ渡っている。火神が窓際の席で、氷室がその隣、通路側の席だった。3人が並んで座るタイプの席だったが、氷室の隣は誰も席をとっていないようで、ぽっかりと空いている。機内は静かだったが、日本語であればそこまで内容を知られることもないだろう。この場所にも、この先にも、日本人は少ないのだから。

「なあ、タイガ」
「なんだよ」
「彼らがうらやましいんだろう?」
「…どうかな」
「ふふ、そんな顔をしてる」

氷室は少し考えて、一口、持ち込んでいたペットボトルから水を飲んだ。そうやって一息ついて、またちょっと考えるように、頬杖をつく。けれどこういうのは勢いが肝心、思い立ったが吉日、というようなノリで、ふふ、と笑った。

「タイガ、あっちに帰ったら一緒に住もう。ルームシェア、俺たちもしてみないか?楽しそうで、いいだろう」

火神ははじめ、突拍子もない提案に、少し呆けてしまった。氷室はやることがたまに大胆だ。とてもアメリカンだ。そういうところに、幼時の環境が流れている。まるで血液だ。全てはノリだ。そういうのが大切なこともある。火神はちょっとだけ考えようかと思ったけれど、こういうのはノリなのだろうなあと、わかっていた。だから、「そうだな。してみるか、ソレ」と返した。決めるのは、先の方がいい。内容はいくらでも詰めることができる。なにせ二人には暇な時間が半日もあるのだ。話し合う時間は、いくらだって用意されていた。何をしようか、どういうふうにしようか、話したいことは、たくさんある。下に広がる雲のように、たくさん、たくさん、頭の中で広がっていた。


END


こんなかんじで氷室と火神もルームシェアしますよっと。
アレックスとかも出したいなーって思いつつ、いろいろわたしも考えてます。
どんな感じになるかはまだわかりませんががんばってみようかなっておもいますはい。

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